『DTMマガジン』の2014年6月号に、昨年末、本校で行った講座「サラウンドセミナー」の様子が掲載されました。サラウンド音響デザインの業界を牽引する第一人者のkatsuyuki setoさんが、さまざまな業界人と対談するという連載企画です。今回は、本校での講演の様子を取り上げていただきました。編集者である萬健一郎さんと僕も参加し、今後ますます面白くなる「サウンドデザイン」の可能性について対話した内容を少しご紹介しますね。
setoさんは「3Dサウンドデザイナー・プロデューサー」の肩書きをもつ方。「音のデザイナー」です。アーティストのように自分の感情や感覚を表現するために音楽を創造するのではなく、「誰に伝えるのか」「どのようにすれば伝わるのか」といった設計をしながら、音楽をつくります。レコーディングやミキシングなど制作の部分においては、いわゆるミュージシャンやアーティストと同じです。しかし、ビジネス・モデルが異なり、setoさんはCDやWeb上で音楽を販売して収益を得ているわけではありません。クライアント、要するにつくった音を買ってくれるお客さんがいます。
たとえば、レストランやバーに「こんな音楽を流したい」という要望をもつクライアントに対し、そのイメージを形にするのがsetoさんのお仕事です。もちろん、お店にやって来た人は、「katsuyuki setoがつくった音楽が流れている」とか「サウンドデザインに力を入れているね」なんてことは思わない。けれど、「このレストランはなんとなく落ち着く」「このバーは上質な雰囲気だね」といった感覚的な“心地よさ”を受け取るはずです。
「いかに心地よく時間を過ごせるか」。これは21世紀の生活にとって大きなキーワードであり、これからの音楽業界においても、重要なことだと感じています。setoさんのお話によれば、東京の駅では、ラッシュ時の殺伐とした時間帯に鳥の声が流れるそうです。しかし、朝から晩まで同じ音が流れ、まだまだ発展途上なのだとか……。setoさん自身が手がけられた最近の仕事では、時間帯や季節によって音が変わる緻密な仕掛けを施したそうです。とても素敵なアイデアだと思います。
今後、都市部での人口は増加し、人口密度は高まり、今よりさらに車や電車の騒音があふれ、音に対する感覚はセンシティブになっていくと思います。しかし、都市の中において、建築やグラフィック、プロダクトデザインなど、視覚・触覚を刺激するデザインが重要視されつつあるのに対し、聴覚に対するデザインはまだまだ意識されていません。
その意味で、「今まで音楽というのは、エンターテインメントしかなかった」というsetoさんの言葉が印象的でした。建物や空間をデザインする人が、音の力を理解し、配慮のゆき届いた環境をつくるためにサウンドデザイナーに仕事を依頼する。これまでの音楽の領域を超えたところに、社会の“心地よさ”を一歩前進させる力があるように思います。
日常の“心地よい”をつくる、サウンドデザインの可能性。僕はもちろん、学生たちも心を動かされたのではないでしょうか。
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