さて、前回に引き続きWebエンジニアコース教員との対談。今回は中編となります。教員や僕たちのなかでも「あんなふうにしたい」「こんなふうにしたい」とワクワクが止まらない新コースへの展望。今回は、日本の雇用形態を脱するあたらしいビジネスモデルにも踏み込んだ話題が飛び出します。
▼エンジニアリングの力で、今までになかったようなアイデアを具現化していく
—:「まずははじめてみることからスタートする」、リーンスタートアップというお話が出ましたが。
横山:そうですね。1割の完成度でもいいから見せてほしいんですけど、学生にリーンスタートアップについて教えるときにこだわりたいのが「決してアクセルを踏むな」ってことですね。日本だと、プロジェクトの進行に関してアクセルを踏みたがる大人が多いんですよ。1、10、100、1000……と言った具合に、一歩ずつ正しく成長していければ、最終的に放っておいても成功するんです。しかし、友達に見せて満足しているところに、いきなり「じゃあWeb上で公開して、10000人に向けてサービス展開しよう!」って規模を広げすぎると、現状の成功度合いとのギャップが大きくて身動きがとれなくなっちゃうじゃないですか。慌ててスキップせずに階段を登っていく、ということが最も大事なんです。
宮本:外部からのそういった急かす声からガードする「柵」はすごく大切です。さきほどお話した「放牧」というイメージですけど、野放しに育てるのではなく、きちんと守っていくべきところは守っていかなければならない。
横山:「いまのITのトレンドだと、こういうやり方のほうが向いているんじゃない?」と提案するのもひとつの守り方ですね。たとえば、これは半年前につくったものなんですけど、400円のコンピューターなんです。
—:400円のコンピューター?
横山:そうなんです。これが単体でもWi-Fiに繋がって、センサーから発せられた情報を送ることができる。従来のコンピューターだったら、年々性能がよくなって「なんでもコレひとつでできる」ようになるのを目指していたんですが、近年ではあえて、できることを絞って、いかに小さく安くつくることができるかがトレンドになってきています。
福岡:いままでと常識が違うので、「コンピューターって使い捨てでいいんだ」と思った瞬間に、従来と同じものであっても、全く違う組み立てもできるでしょう。
横山:これはセンサーだけのコンピューター、これは音がなるだけのコンピューター、これは光るだけのコンピューター……と、それぞれで、できることが単純化されています。この機能を例えばiPad上などで凹凸の穴を組み合わせるようにして繋げることができる。センサーに光る機能を繋げれば、「玄関の前に立つと自動的にライトがつく」サービスをつくることができる。これはすでにたくさん商品がありますね。また、センサーの機能と音がなる機能を繋げれば、「赤ちゃんがベビーベッドから出ようとすると、フチにつけていたセンサーが揺れて、台所にいる母親に音で知らせる」などのサービス展開ができますね。
—:なるほど、基本形態を単純化させることで、いろんなサービスをつくりだすことができるんですね。照明が光るという点をとっても、便利なサービスだけではなく、エンターテインメントの分野にでも活用できますしね。
横山:そうなんです。いまおっしゃったアイデアのように、学生のほうが世の中のトレンドに詳しくて、「ライブの場でこんなんできるやん」と、僕たちでは考えもつかなかったような活用法を教えてくれたりもしますね。将来はコンピューターがもっと生活の身近に存在する、そんなチャンスはまだまだいっぱいあります。コンピューターっていうのは考えることが仕事なので、いままで思考能力がなかった電球とか椅子がなにか考えると、どんないいことがあるかねっていう、新しい考え方ができる。
—:それはコンピューターが安価になったからこそ、いろんなものに思考をつけることができるということでしょうか。
横山:はい。「■■さんって、こんな明かりが好みだったよな……」という個別性を持たせると世の中がもっと便利に面白くなりますね。でもそれって、誰かがつくらなければいけないんですよね。いままでにないものをつくり出す発想が必要です。
宮本:エンジニアリングの力で、今までになかったようなアイデアを具現化して、クリエイティブに発展させていくような目標値が、コース全体のコンセプトとしてはありますね。
—:聞くだけでワクワクしますね。
横山:そう言ってもらえるとありがたいですね。
▼日本雇用の形骸化から脱して、技術をもった人間だからこそ立てるトップを目指せ
横山:クリエイティビティって膨大な失敗の積み重ねだと思うんですよね。最初から「これ当たるよね」っていって当たるようなものじゃない。試しに、「■■さんが来たら明かりがつくものでもつくってみるか〜」っていうミニマムなアウトプットがスタートですから。
—:ゴールの積み重ねなんですね。
宮本:サッカーでいうなら、99回蹴りそこねても1点入れたらそれで勝ちなんですよ。何度でも続ければ、そのうち成功するよっていう。多産多種と言ってもいいですね。日本人的な生真面目さって、失敗を許容する文化がないので、なかなか難しいんですけど。
横山:うまい失敗の仕方をみんな知らないんですよ。受け身が取れずに顔面から派手にころぶってことが往々にある。「先生、ぼく会社やる。起業するから会社辞めて、銀行から借金しました」みたいなことをいわれるともうハラハラで。それは土日にちょっとずつコツコツやって、100人お客さんつけてから辞めたらええやん……みたいな。
福岡:これは日本の伝統芸能とか伝統工芸のなかで、ずっと培われてきた世界なのかもしれないですよね。
—:と言いますと?
福岡:つくって見せる、これが趣味なのか仕事なのかがわからないような状態のなかで、仕様書とか、それこそ予算稟議もなく、自分の頭のなかのものを形にしていくような働き方が、太古から日本にはいろんな分野であったんだろうなって。
横山:それは ITの不幸ですね。日本人的な仕組みのなかで、「つくれないから誰かにつくってもらおう」と、欲しい人とつくる人が別れちゃった時点から不幸がはじまったような気もしますね。
横山:これは日本的雇用の慣習が大いに関係しています。アメリカってその瞬間に人を雇って、要らなくなったらクビが切れるので。日本はそれができないからバッファーになる会社が必要であると。すぐにクビが切れるアメリカは、クビになったからといって不幸じゃない。この仕事が終わったら、次に似たようなものをつくることができる場所に行けばいいという、スキル重視の雇用なんです。どうしても日本の場合、人に頼むものだっていう認識になっちゃったので、かゆいところに手が届かなかったり、お金を出してつくってもらってる以上、納品後のイマイチ感があっても直せなかったり。先述した繰り返しができないんですね。
宮本:あと根本的には、日本は文系が支配しているのが間違いですよ、明らかに。
横山:そうですね。
宮本:これは誤解を恐れずにいいますよ。明らかに間違いですよね。つくれない人間がなぜトップにいるのかと。
横山:ここ数年で、日本でもCIO(最高情報責任者)ではなくてCTO(最高技術責任者)にその価値が見いだされつつありますけどね。なぜCTOの価値が高まってきたかというと、テクノロジーの可能性で、ビジネスの組み立てがガラリと変わるんです。僕が、学生に常々いっていることなんですよ「常識を変えなさい」って。コンピューターは400円でつくれるよね、ってことを知っている人と知らない人で、出せるソリューションが全然違ってくるんです。この知識が経営の根幹にないといけない。つくる前に、失敗を恐れるがあまり100の議論、100の考察をするのが今までで。じつは製作コストってすごく安いんだよってわかった瞬間、ビジネスは変わってくる。かつ失敗を許容できるなら、とりあえず10個つくらせてみて、一番いいやつで試そうよ……という。これを判断できる経営者がいないんですよ。宮本先生のお話と一緒で、知らない人が戦略を立てるってどうなの、という……。
宮本:もちろん、技術者じゃないにしても知識が豊富なトップもいます。でも、テクノロジーで何ができるの? という問いを中心にすえて、そこに答えを出せるからこそできる経営判断とか、会社自身のビジネスの組み立てに関わっていってほしいな、という願いはやはりあります。文系支配っていう現状に対して、もったいないことになっているなあと思いますね。
—:そのあたりは、どういった人を育てたいかという部分と重なりますね。
横山:そこは宮本先生と一致しています。机の上でうんたら……よりも、とりあえず先にまず、つくって見せてほしい。
宮本:8割でも1割でも。すぐに止まっちゃうんですけど、っていう状態でも、これはエラーが入って止まっているのかな、なんやこれはって言って。ああ、そういうことね……と、話しながら次を模索できる。僕たちの仕事は、どこでつまずいているかっていう部分で技術的支援をすることでもありますから。
▼「技術」「デザイン」「企画」の3階層を学生には学んでほしい
宮本:さっきといっていることは一緒なんですけど、新コースはぜんぜん知識先行型じゃないんですよね。いまの時代、「なんのために勉強するんですか」っていう質問がすごく多い。「そのうち役に立つから」という言葉は、僕ももういい飽きたんです(笑)。いま役に立たないことは、いずれ役に立つかもしれないけど、別にいましなくていい。だから、「これをつくりたいんです」っていうのだったら、必要最小限っていう言葉はよろしくないですけど、最短距離に向かうような学習の仕方っていうのはありっていうことなんですよ。
横山:革新的なコースなので、いわゆる今までの認可されるような教育課程に縛られない。たとえば、前期・後期っていう考えがありますよね。しかし、前期にこういうことやる、後期にこういうことをやる、月曜日の1時間目はこうやるということではなくて。ああ、それいいな、じゃあ、今日の授業はこれにしよう。という感じで、行き当たりばったりって言うとそれまでですが、臨機応変といいましょうか。当然、コンセプトは放牧なので。外側の柵からはみ出たりしないんですが、今日はこのあたりの草がおいしくないらしいと思ったら、別の所を食べてもらったらいいだけの話なんです。
宮本:たとえば、Aというプログラミング言語があるとして、世の中では一番使われている。いま僕が教えているやり方だと、「将来役に立つから、さあ、やりなさい」と丸投げするのではなく、「先生、僕こんなん見つけたから、これやりたい」と声があり、そこで、「あ、俺も知らんけど一緒にやろか」っていうことで、一緒になって学習と制作をします。まず、この言語体系を2週間でマスターして、プロトタイプを1週間でつくって、みんなでそれを使いながら意見を出し合ってブラッシュアップしようか……、という流動性の高い授業を行っています。時間割とか、今日の何時は何をするって縛りを設けてしまうと、うまく機動力が発揮できなくなるんですね。もちろん、書面上はそうなっていると思うんですが、実際の授業はもっと柔軟にやっていきたいですね。ある技術をとりあえず身につけるために1週間その勉強ばっかり……っていうのでもいいですし、それが終わったら先生から一切習うことなく、「黙っとってください! 1週間は僕がつくりますから!」っていうようなフェイズがあってもいいかなと思います。
—:基本的には自由にさせるけど、決して行き当たりばったりではないということですね。
横山:たぶんレール半分、自由にやっていいよっていう実習半分になるんじゃんじゃないかと。レールといっても、そこは訓練次第で学生自らがレールを敷くくらい自主性があってもいいと思うんですよね。かつ、大事な要素があって。それは「技術」と「デザイン」と「企画」っていう。
宮本:3本の支柱でやる。デザインって芸術性のそれではなくて、企画の設計ですね。企画の緻密さっていうか……。
横山:それぞれの要素が足りていない人って、他人にどのように見せていくとか、ブラッシュアップをどうしていくか、予測の組み合わせができないんですよね。「技術」の裏づけをもとに「デザイン」したものが、誰のどう役に立って、こんなお金儲けになるかもっていうのは「企画」なんです。知識や経験の前提が多ければ多いほど可能性は広まるので、「技術」の選択肢も広がります。取捨選択して「企画」から「デザイン」ができると理想的。そのため、これはカリキュラムとして行います。やっぱり、いままでその3つ、「技術」は技術の学校、「デザイン」はデザインの学校、「企画」は企画の学校……と、学ぶフィールドが別れていたのを、新コースでは全部やりたい、というのが特徴なんです。最低限、新コースに来た人はこの3つに対して、一言なにかいえるようにはなります。
宮本:3本柱はありますが、我々はやはり「技術」の学校であるところが一番大きな強みであると思っています。技術があって、武器や手数をそろえたうえで、あとは見せ方や使い方、売り方を考えられるところまでつながれば、日本の市場モデルをガラリと変えることもできると僕は思っています。
横山:僕は3本柱っていったら誤解だと思ってて……。それって「ピラミッド」だと思うんですよ。
福岡:階層?
横山:ええ。技術を前提としたデザインがあるというような形。
宮本:なるほど、そういう階層による重みっていうか、配分は違いますよね。
福岡:人材育成像の話に戻っちゃうんですけども、今年、神戸市のミッションで、市長と地元のIT企業の人たちがサンフランシスコに行ったんですよ。そこでうちの卒業生、神戸電子の4年制から大学に行った学生が現地に派遣されて来ていたらしいんです。その卒業生の他にも、他大学から3人ほどが派遣されていたんですが、IT企業の社長たちから見て、うちの卒業生がピカイチで光っていたと褒めていただきました。それはなぜかというと、サンフランシスコで現地の方からの起業のお話に対して、そのアイデアが自分だったらどうするかという観点で話を聞いていたと。会話の受け答えも、その思考をベースに行っていたそうです。まあ、その卒業生は、入学した時から優秀だったらしいんですが、さっきの話でいうと、いま適応できる技術を持っているかどうか、すぐに目の前でプロトタイプがつくれるかどうか……っていうことが会場では問われていたんです。
福岡:サービスを生み出すとき、ユーザーのニーズを持っている人が一番強いじゃないですか。それが、いま企業ではなくて個人なんだっていう話ですね。ニーズを把握している人が技術を持てば、個人でもサービスが起こせる。もしくは企業のなかでも顧客のすぐそばにいて、顧客のニーズを逐一吸い上げることができる。つまり、直接かゆいところに手が届くものをつくれるという人が当然一番偉いですよね。それができる人を、宮本先生は文系、理系と表現しているけど、文系、理系の差もなく、日本ぐらいでしょ、これが軽視されているのは。
宮本:そうですね。定義をすること自体がナンセンス。
福岡:要は問題解決行動において、これはちょっと苦手だから、嫌だから……っていう人はダメなんです。あらゆる問題解決行動のツールとして、使えるものは全部吸収してやるっていう人が評価されていくと思うんですよね。そのなかでも神戸電子は解決の手段としてITを大きくクローズアップしている。でも、これはうちだけの話ではなくて、当然もう国際的な動きだと思うんですよね。
横山:ひとつそこにポイントがあると思っていて、理系、文系の縛りはナンセンスなんですけど、技術系、非技術系に表現されるようなところがあって。つまりは技術の可能性が世の中を変えるっていうことなんですよ。うちは技術の学校だから、そこは強みですね。よくある社会ニーズを調査してうんたら……じゃない。僕、校長のところにひとつ突っ込みを入れたいのは、現代ってニーズが見えない時代だと思うんですよ。ニーズ自体、こっちから見せなければ見えない。
—:具現化していかないと?
横山:そうなんです。
福岡:そうですね。そこはカスタマイズしてやらないといけない。
横山:「例えばこんなサービスはどう?」って見せて。
福岡:その通り。
横山:配車サービスの「Uber」で例えると、「タクシーが自動で呼べるんですよ」、「え、いいじゃん」というやりとりをもってはじめてニーズが生まれ、サービスがつくられる。それがいまの時代。
福岡:要は「needs aud wants」、「wants」っていうのは、あるセグメントされた領域に関して、精通した人がずっと練りためたものもあれば、複数人で雑談しているなかでセレンディピティ的にぽこっと生み出されるようなものもある。でも、そっちのほうが結果的には大きなモデルになる可能性は、いま出てきてるわけじゃないですか。そういう意味で、いま「needs」も「wants」もたぶん同じだと思うんですよね。顕在化していないけれども、具体例を提示することで、「あったらいいなぁ」が「これがほしい」という意識に変わる。
▼「needs aud wants」を刺激して、潜在的な欲求を顕在化させるつくり手であれ
横山:僕はひとつ、次元を超越したいと思っていて。「needs」も「wants」も、分析っていう言葉でひとり歩きしていると思うんですよ。僕は、それと少し違う仕掛け方で、自分が欲しいものを試しにつくるという方法を考えています。それは100個あってもたぶんいらないって周囲からいわれるんですけど、それをつくって周囲にみせることで、「needs」や「wants」の意識を刺激できるっていうことに可能性を見出したいんですね。分析だけはされているんですけど、それはどうやるのっていう問いに関しては、いろんな手法はあれども、みんな結局核心を突かない。それぐらいなら自分が欲しいものをつくる。ただしクイックに。ひとりの欲しいものが、ひょっとしたら周りも欲しいかもしれないっていう、ブラックボックスの蓋を自分でつくってあけるというワクワクに、技術系だからこそできる可能性を見出したいっていうことですね。だから学びの順番は「技術」、「デザイン」、「企画」っていう順番で突き抜けていく。
福岡:3階建てだ。
横山:そうです。かつ、その途中で無駄な事象が起きる。でもそれは無駄でいいんです。そこはポイントとして評価したい。少しずつ日本の社会もそう変化しつつあると思いますね。「Uber」でもなんでも、実際にそのサービスが出てくるとみんな、「俺、昔から考えてたし」っていうんですよ。でも実際にやった人は全然いない。じゃあ、なんで君はやらなかったのっていう……。そこなんですよね、「needs aud wants」を、神戸電子だからこそできる仕掛け方で、世の中を刺激していきたい。そういう意味で僕は、学生にはわがままでいてほしいですね。世の中で不満があったら技術で解決してみる。「周囲の人も困っているかもしれないから」っていう、そういうだけの人は多いけど、結果として具体策をつくれるのはうちのコースの学生だけでしたっていう結果を残してあげたいですね。
======
さて、次回はいよいよ最終回の後編です。自分でなにかつくって、世の中を変えていきたいと意気込むあなた、最終回もお見逃しなく。