2016年春、神戸電子専門学校に新たな学科「Webエンジニアコース」がスタートします。アイデアをだせて、つくれて、運用できる、在学中の起業も決して夢ではない、次世代のクリエイター「クリエイティブ・エンジニア」を育てるためのコースです。
今回は、Webエンジニアコースに着任する二人の先生と共に、このコースについてインタビューをうけた模様をお届けします。長い記事につき 3編に分かれますが、最期まで読んでいただければ「Webエンジニアコース」への期待感で満たされること間違いないと思いますよ。僕自身入学したくてうずうずしているので。
▼Webエンジニアコース着任の先生がた
—:今日はよろしくお願いします。まずはふたりのプロフィールからおねがいします。
宮本先生(以下、宮本):僕は新コースのリーダーとして、カリキュラムの構築や内容の精査に携わっています。
横山先生(以下、横山):僕はインターネットの技術屋です。もともとはネットワーク分野で博士号を取っているんですが、インターネットやネットワークが関係するようなものだったら何でも来いと、今まで講義や研究開発をやってきました。宮本先生はもともと、人工知能が専門なんですね。
—:そうなんですね!では先生方が元来専門とされている分野について教えていただけますか?
宮本:そうですね、僕は人工知能が専門でずっとやってきたんですけど。今「第三次AIブーム」と呼ばれている時代がきていまして。
—:第三次ということは、第一次と第二次はどういったものだったのでしょうか?
宮本:第一次が、回路を組んで、人の知能に近い働きをさせようとした時代。ただ、当時の生産技術では思考回路を1回1回つくり直さなければ新しい計算ができず、アイデアを形に実現するまでにものすごく時間がかかったので、一旦みんな諦めたんです。第二次が、その演算をソフトウェア上で実現した時代です。
宮本:現在の第三次AIブームが、コンピューターが自分で「経験」を獲得する機械学習ができるようになったということです。たとえば将棋のロボットでいうと、一手ずつ次の手を計算するのではなく、過去の棋譜から似たような譜面を検索し、今の状況にベストな回答を導き出せるようになった。それは、第一次ブームで頭打ちになった推論能力が、半導体の進歩で飛躍的に高まったこと、第二次ブームで限界だった知識の面で、インターネット上の膨大な情報を即座に検索して使用できるようになったからなんです。
横山:インターネットの話がでたので、追加で僕の自己紹介を。僕はインターネットの空気、とくに変化の激しかった頃を経験していたんですが、これは自分にとっての宝と思っていまして。そもそも当初は学問じゃないと、「つくって遊んでる連中だ」と揶揄されていた最後の時代に参加できたんですよ。そうすると何をやっているかというと、まあ何でもやれって言われて育ってきたんですね。
横山:分野がまだまだ混沌としていた時代なので、ネットワークもやるし、ネットワークを誰のために、どうして、どのようにつくっているのかも考える。ネットワークを使ったアプリケーションも考える。時にはコンピューターも自作していました。その当時はネットワーク利用の黎明期。現代からすると非常にミニマムだったかもしれませんが、全部のジャンルを経験できたっていうのはやっぱり宝ですね。今の時代、見せかけだけわかりやすく産業化して役割分担で仕事をしようとしちゃっているので、よいものが生まれなくなっているんです。僕が自負しているのは、ネットワークという切り口をつくった瞬間にいろんな分野と関われるんですね。ミュージシャンから教育の人まで、あらゆる分野で「ネットワークであなた達の業界を良くしますよ」っていう意味では関われるんです。
福岡(僕のことです):たとえばAmazonでは、商品ページの下部に「この商品を買った人はこんな商品も買っています」と関連商品への誘導がでますよね。これはコンピューター、つまりAmazonの人工知能が、購入履歴の膨大なデータをインターネットから検索し、ユーザーが興味を持ちそうな関連商品を回答しているんです。現在のクリエイティブは、この人工知能とインターネットの力がとても重要になってきます。そこに新しいアイデアを実装させて、新しい価値観をつくりだしていくのがWebエンジニアコースの目標になってきます。
—:なるほど。ゆえに人工知能とインターネット、それぞれの知識・経験が豊富な先生がたが新コースに携わっていらっしゃるんですね。
▼アイデアをどんどんカタチにしていくWebエンジニアコース
—:「Webエンジニアコース」って、具体的にどういったものをカリキュラムにされているんでしょうか?
宮本:具体的にどんな講義があって……というのはまだ確定ではないんですけど、いや、確定も何もないのかもしれないですね。
—:というと?
横山:新コースは、午後からは授業はなく、すべてが実習時間になります。学生たちが新しいアイデア、「これって面白いんじゃないの?」と湧いてきたものをどんどん形にしていく。それはシステムなのかもしれないし、プロダクトなのかもしれない。形がある訳ではなく、サービスそのものなのかもしれない。どんどん新しいものをつくってそれを運用していくようなイメージになります。
福岡:なので学生のうちから企業できたり、自分たちがつくった商品やサービスを企業に売り込むこともできるんです。
—:それは起業だけじゃなく、就職するにしてもポートフォリオとして、かなりパワーがありますよね。校内課題のアーカイブだけじゃなく、実際に市場で使われている訳ですから。
宮本:そうです。勉強して資格を取って……っていうのが、いわゆる従来の教育現場だったんですよね。クラスに関しても、担任がいて、4〜50人相手に授業をしていた。新コースは人数をギュッと絞った少数制になります。そして学生たちの活動時間をしっかりと担保。あくまでもアクティビティの主体は学生側で、それを我々が全力でサポートするというかたちなんです。とはいえ、初日から「さあ、やりなさい」って言って、何かができるっていうわけではないので、ある程度の枠組み、大枠……牧場でいう柵みたいな部分ですね。ここから先は学校じゃないよっていう境界線は見ていくけれども、その中で自由に放牧していると。小屋のなかにずっと入っているではない。動物的な表現はちょっと正しく伝わるかどうかが微妙なんですけど、イメージとしては放牧に近いですね。
横山:そもそも、従来の学校の勉強って、将来、フィールドに出たあと活躍できる「らしい」人をつくるはずだったんです。そのための準備として勉強を教えている、と。
—:「らしい」?
横山:できるらしい、できるのではないか、と思われる人をつくるという……。
宮本:要は社会人としての入り口に立つための、その準備というか、資質さえそろえればよかったんです。でも、しょせん学校で経験したことなんて、ほとんど会社に入ったらリセットされますよね。社会の間口をくぐるところが、教育で最大のポイントっていうやり方はしていたと思うんです。それを否定するつもりはないですけど、それもひとつの基軸として残しつつ、間口を突破するってことも考えないといけなくなってきた。時代の流れとして。学生時代から、たとえば企業とコラボレーションしたり、単なる就業体験に過ぎないインターンシップじゃなく、実際にプロダクトを出したりすると、これは本当に実践経験を詰めるということなので。
福岡:そうですね。会社で活躍してくれる人を社会が欲しいのだから、その活躍そのものが学内での活動で示していければ理想的です。なおかつ、ほかの分野に比べると、WebエンジニアコースはITの分野なので、活躍イコール、エンジニアとしてものをつくるということなので、より社会に示しやすいかと。
▼シリコンバレー発の新しい起業法「リーンスタートアップ」を実践
横山:すこしIT業界の世界に触れるんですけど、IT分野に関する何もかもがすごく安くなっているんですよ。これは絶対に値上げすることがない。どんどんコストが安くなっているってことは、個人ができることがどんどん広がっているんです。たとえば個人レベルで開発したものって、技術を用いて、それで一体何ができるのか? っていうことを模索するわけなんですけど、模索しきってからじゃないと技術として証明できない、っていうのとはちょっと違うんです。
福岡:いま横山先生がおっしゃったこと。これはアメリカなどのIT分野が産業と密接に結びついて、かつ、社会的成功とも結びついている分野です。次世代の新しい成功の仕方っていうのがひとつありまして、これは学生にどんどん伝えていきたいことなんですけど。それは「成功するまで続けたらいいんだよ」っていうことですね。
宮本:要は、いかに失敗を繰り返しながらベストに近づけていくかってことなんです。近づくためのいろんな方法はあるんですけど、エンジニアであることが一番短距離でベストに近づける存在なんですよ。自分でものをつくれないと試行錯誤できないですし、最初から他人につくってもらうと、一回失敗したら次のブラッシュアップにお金がかかってくるので懐具合によっては二度とブラッシュアップできない。
横山:かっこいい言葉でいうと、自身のつくったもので、市場とのダイアログを繰り返していき、成功が導かれる。ユーザーと「こうしたらもっと良くなる」とか、対話を続けていくことが重要なんです。かつ、さっき言ったように、技術を生むコストが安くなっているので、スタートは簡単に切れる。だからまずは、何かつくって友だち10人に見せろよ、って学生に教えるんですね。10人に見せてダメなもの、もっというと、自分が見てダメなものは人に見せるなよと。
宮本:中途半端で自信がない人に限って人にヒアリングするんですよ。「自分はわからないけど、みんなが良いと思ってるから」って言い訳するんですけど、自分に嘘をつくものづくりは絶対ダメ。自分が満足すると、自信を持って友だち10人に見せられますから。
横山:そうなんです。自分と違う視点でいろいろ言ってもらえるし。10人に見せると、今度は予想外のツッコミとかが降ってくる。「これあったらこんなんするわ」と。
—:それがブラッシュアップされていくということですね。
横山:そうです。そうすると次の100人が見えてくるんですよ。友だちの友だち、そしてその先の友だち……っていう知らない人にまで見せてもちょっと安心できる。たとえば学校のなかでみんなに見せびらかすっていうのが10から100人の規模だとして、そういった箱庭のなかで見せびらかしていくと、さらに次の1000人が見えてくるんです。1000人っていうと、インターネットで知らない人に配るぐらいの規模ですよね。1000人が「良い!」っていうものになってくると、もう放っておいても大丈夫。
福岡:これがひとつの成功体験なんです。
横山:現状の教育現場や企業って、そういうやり方を学ばない。形骸的なやり方やチャレンジって、いきなり銀行に借金して1万人向けに何かつくっちゃう。途中で焦げついたらにっちもさっちもいかなくなるやり方なんですよね。
—:途中でしまったと思うけど、借金もあるし、ここまでつくったし、もう今更戻れない……みたいな。
宮本:そうそう。1、10、100人……っていうレベル感の達成度合いでいえば、じつは個人が土日にやったってできるんですから。ただ日本の場合はどうしても、個人でがんばるとか、会社のなかでがんばるっていう考え方なんですけど。それを社会全体で教えているのがアメリカですね。なかでも、いかに多くチャレンジできるかっていう点で、ITは挑戦が容易です。
宮本:たとえば10人に向けて「これは技術的にそういうつくり方することもできるんですよ、現状のものは10人向けだから、いまこんな感じで手を抜くんだけど、100人向けのときにはこう変化させて……」と、どんどん小さな成功と改善点を積み重ねながら成長していく。アメリカでは「リーンスタートアップ」って言うんです。Webエンジニアコースでは、「リーンスタートアップ」をITで在学中から実践していきます。
福岡:「リーン」とは「薄い」って意味の言葉ですね。薄くスタートして太らせていく、アメリカのシリコンバレーを発端とする新しい起業方法です。最初は低コストで最低限の製品やサービスをつくって、ユーザーの反応に応じてブラッシュアップする。このサイクルを繰り返すことで、起業の成功率が飛躍的に高まるといわれています。
—:とりあえずは始めてみることからスタートする、と。
宮本:そうです。だから、学生たちには8割でもいい、何なら1割でもいいからつくったものを見せてほしい。周りに見せて、反応値をうかがって、つくり込んでいくなかでベストを目指してほしいんです。
—:それは画期的ですね。どうしても制作物って、完成しなきゃ見せてはいけない、他人に見せるレベルまでいってないのに発表なんてできない……と学生たちは尻込みしますし、評価する側も「できてないじゃん!」って減点するのが普通ですから。
横山:新コースでは、できていないのが当たり前なんです。そこからいろんなコメントや試作、改善を経ていくものなんですから。だから僕たちは「できてないじゃん!」っていうのは絶対に言わない。現状のものから、どうやったらもっと便利にできるのか、あるいは新しい可能性を一緒に考えていく。そんな授業を目標としています。
—:これは、すごくワクワクする授業ですね!
いかがでしょう、いままでの授業の概念を打ち壊す「Webエンジニアコース」。神戸電子にとっても、僕自身にとっても新しい挑戦です。でもこの挑戦、とっても未来へのワクワクが芽生えてきませんか?
次回もロングインタビュー、後編をお届けします。