前回、インダストリアルデザイン学科の川口先生が業界のプロに向けて講師を担当された「公益社団法人 大阪府工業協会」主催’3Dプリンタセミナー’の様子と、神戸電子で使用している3Dプリンタの紹介をしました。後半となる今回は、インダストリアルデザイン学科について、詳しく川口先生に語ってもらった様子をお届けします。
インダストリアルデザイン学科の全体カリキュラムは、3D-CADの設計とプロダクトデザインが二本柱となっています。CADを用いてデザイン図を引き、3Dプリンタでの出力、レーザーでの削り出しや加工などを経て、具体的な作品を製作しています。製作には3Dプリンタだけではなく、レーザーカッターや、その他のデジタルファブリケーションツールなどを駆使しながら、デザインや機械設計の手法を学んでいきます。
3Dプリンタを用いた制作物を紹介するに、丁度良い物が出来上がっていました。これらは釣り用のルアーです。3D-CADで設計データを作成し、データを3Dプリンタで読み込んで造形。ここでルアーが裸の状態でできあがります。さらにそれをUVプリンタでグラフィックを施し、ルアーに絵つけ、金具を取りつけてコーティングを施した後に完成します。
この授業の面白いところは、ただ単純にルアーをつくるだけではなく、3Dプリンタ各学生が製作したルアーを用いて、神戸の海や池で実際に釣りのフィールドテストを行うという点です。
実際に釣りをすることで、ルアーの形はこれで良かったのか、装飾はギラギラしすぎていないか、逆にもっと色を使うべきであったかなどなど。自分たちの作品が、市場のなかでどのように価値づけられるのかを、使用の実体験を通じて学びます。もちろん。釣りの腕前はあるかと思いますが(笑)。
そうした、実体験をともなう製作の日々が学科の授業。その取り組みに関してはFacebookの「ものづくり団」というグループのページで見ることができます。学生と教員達で結成し、学科活動のなかで製作した作品を紹介したり、授業の様子もレポートしています。
いくつかある記事の中で僕が紹介したいのは、3Dプリンタでのラジコンカーの製作。こちらもルアーと同じく3D-CADでデザインを設計し、3Dプリンタでパーツを出力しました。ルアーは出力物そのものが商品となりますが、ラジコンカーの場合、出力するのはあくまでパーツ。パーツを組み立てて一台の車にする必要があるため、微細なズレが発生しないよう、より高度な製作技術が必要とされます。
現在は5台が完成していて、今後はラジコンカーの機械制御をハード分野の学生に関わってもらうなど、多学科とのコラボレーションを考えているそう。学科を越境し、それぞれの得意分野を活かしながら、ひとつのものをつくる……。神戸電子ならではのアウトプットがまたひとつ生まれそうです。
ラジコンカーの製作も、試走を重ねて改善を重ねていきます。こうした取り組みは、「市場と変わらないものづくりができる」学生を育てられると川口先生。デザインしてつくって終わり……ではなく、ひとつの商品にかかる加工時間がいくらで、材料費がどれくらいで、いくらで売れば商品の利益がでるのか。そこまでを考えることで、市場と同じ感覚を身につけることができるのです。
実際に今年の11月には、かねてから商品開発を続けていた、段ボールを用いた薫製機を使って、北野坂のお祭りで薫製の実演と販売を行いました。自分たちが改良を重ねながらデザインをしたものが、貨幣価値を生み、薫製の販売を通じて「おいしい!」「楽しい!」というユーザーの声をゼロ距離で実感できる。学科の卒業生は、3D-CADの技術者として働く人が多いのですが、学生のうちから成功・失敗の具体的な体験を重ねることで、より早くプロの技術者となりえるのだと感じています。
「いい機械を使える、高い材料を豊富に使用することができる、これは作り手としては二の次。企画を立てて、デザインを設計して、現物をつくってみて、実際に使ってみて、問題を見つけて、また企てて……と、このサイクルをこなせることが、よい作り手になるためのすべての基本。実際の開発についても学生の学びについても、この根幹は同じことだと思います」と川口先生はお話ししていました。
ルアー、ラジコンカー、木製雑貨、インテリアプロダクトなど、興味の湧くテーマのデザインを学びながら、上記のサイクルを繰り返し経験することで、使い手にとっての付加価値を見いだしたり、つくり手に必要なコスト意識や環境意識などが身につく。そして、専門技術を使い手とつくり手、さまざまな立場の人の視点に立ってものづくりの現場で専門技術を活かすことができる……。神戸電子のインダストリアルデザイン学科ではそんな人材育成を目指して、授業を行っています。
最先端の技術も、根底にあるのは市場のニーズをしっかりと理解して、そこに合ったものをつくれてこそ。実直にものづくりを続けるインダストリアルデザイン学科のみなさんが、次にどんなものを生み出してくれるのか、とても楽しみでなりません。