北野館地階のソニックホールは、特別講義や学生作品の発表会、校外イベントなどに幅広く使用され、神戸電子の顔となっています。このソニックホールの音響機材が、昨年9月にリニューアルしたのをご存知でしょうか?
今回、スピーカーやアンプ、ミキサーに加え、それらをつなぐケーブル配線も含めたサウンドシステムの全てを一新。スピーカーは舞台両脇の上部から吊り下げるラインアレイタイプになりました。イタリアのアウトライン(OUTLINE)社製、最新鋭のラインアレイスピーカー’マンタス(MANTAS)’シリーズです。
機種選定は、サウンドテクニック学科に音響技術の特別講師として、教えに来てくださっている株式会社トライオーディオさんと相談して決めました。トライオーディオは関西の会社で、日本を代表する音楽フェスティバル、フジロックフェスティバルで昨年、15ものステージの音響設営と運用を行った、まさに日本を代表する音響のプロです。そこで最も使用されているラインアレイ型スピーカー群がアウトライン社製でした。
このスピーカーの音質特性は、世界各国の音楽シーンで高い評価を得ています。しかし、細かく調整をしなければその上質感は引き出せないという特徴を持っています。加えてラインアレイ型は、高い位置から吊り下げて使用するため、正しく扱うには、吊り下げ部分の安全面を確保しながら、スピーカーを設置したり、その音の調整を行う技術が必要となります。簡単に設置できて、簡単にきれいな音を出せたのでは技術が身につきません。あえて難易度の高いものを教材として使用することで、学生諸君には高い応用性を発揮できる礎的な技術力を習得してもらうことを狙いました。その為に言わば音響界のF1マシンを導入したということです。
「そもそもラインアレイスピーカーって何?」という方に、簡単な解説をします。
ラインアレイ型の一番の特徴は、広い会場内のあらゆる場所に対し、均一に音を届けれることです。
通常、SR(プロオーディオ/PAの中でも、音楽演奏寄りの音響)用のスピーカユニットは、中高音域を担当するキャビネットと、重低音を担当するキャビネット(サブウーファー)に分かれます。特に前者の方に大きな違いが有ります。
通常のスピーカーは点音源と言われ、一つの点から出た音が縦方向、横方向共に同じ大きさで輪のように広がって行きます。会場が広くなると、これらを縦横に並べて全体の音圧を上げるのですが、それぞれの音が縦にも横にも広がるため、互いに干渉して音の反射が起こったり、スピーカー近くでは大きなハウリングが起こったりと問題が出てきます。
これに対し、ラインアレイスピーカは線音源と言われ、縦(垂直)方向の音の広がりを抑え、横のみに広がる構造を持った比較的小さなスピーカキャビネットを縦にたくさん並べることにより、余分な音の反射を押さえながら、広範囲に純度の高い(混ざりけの少ない)音を届けることができるようになります。
地元神戸の音響機器メーカTOAのWebサイトに良い解説がありますのでそちらもご覧ください。
各スピーカーキャビネットはゆるやかなカーブを描いてステージ前面の高い位置からつり下げられます。このカーブは客席の形に合わせて設定されるため、会場の広さや座席の状態に応じた音の放出が可能です。しかも、いまはデジタル技術により、音が会場内にどれだけ届くのかを事前にシミュレーションすることも出来ます。会場の壁の素材の影響で音が濁ってしまうような場合も、それを解析して改善するソフトウェアがあります。現代の音響テクノロジーは、会場の特性を活かしたり、補ったりしながら、アーティストやエンジニアが、音の表現に対しとても細かな設定ができるまでに進歩しているんですね。
また通常、ラインアレイ化には音声信号のデジタル化が伴います。今回これをフル導入したことでカリキュラムの幅が更に広がりました。舞台でバンドが演奏をする際、ボーカル、ベースアンプ、ドラムなどにそれぞれマイクをあてていきます。ドラムだけでも10本、20本と必要です。これまでは、それら舞台上で拾った全ての音を、ステージから離れたミキサーまで個別に届けなければいけなかったので、舞台上はすぐにコードで一杯になってしまいます。今回、これら数多くの音声信号をステージ側で一旦デジタル信号化し、一本のLANケーブルでミキサー側に飛ばすシステムとしました。舞台上のコードの混乱が無くなり、演奏している人たちにそれぞれ必要な音だけを返すモニター作業もスムーズになります。また、録音や調整もすぐに行えるなど、音楽イベントのあらゆるシーンでのフレキシブルな対応力が格段に上がっています。
日常、非日常を問わず、生活の中で得る精神的充足感を高めるという大きなテーマに関し、人の感覚器官である五感というものをいかに満足させるかとの関心も高まっています。このうち、神戸電子サウンド分野では、音や声の表現者として、聴覚を心地良くするための取り組みを続けています。今回、国内の教育機関はもとより、中小規模ホールの中でも最先端に位置する音響機材を導入したソニックホール整備もその一つ。
人生のトピックとなるような非日常的なイベントでも活躍する音響技術。これを学ぶ学生諸君には是非、ダイナミックな企画と繊細さ伴ったとことんの質感調整でもって、心地よい音空間を創出できるようになって欲しいものです。