年度末に「Digital Works」という各学科の成果発表会を行っています。毎年、IT分野(ITエキスパート学科、ITスペシャリスト学科、情報処理学科)では、「もうこのプロダクトを引っさげて、起業してもいいんじゃないか」と思わせてくれるようなプレゼンが揃います。今年も、事前選考の難関を勝ち抜いた7チームが登場。300人を超える来場者の前でプレゼンテーションを行いました。
そのなかで「2年生部門」で1位を獲得し、最優秀賞を受賞したのが、高性能なランチャーを開発したチームです。ランチャーとは、ファイルやプログラムをアイコンで一覧表示し、デスクトップを有効活用できるソフトウェアで、MacでいうところのDock機能やLaunchpad。これに、検索機能やユーザー向けのカスタマイズ機能を付け加え、Windows向けのアプリケーションとして開発したのが今回の作品です。
発表会場でもゲスト審査員や来賓企業の方からたくさんの質問やコメントが寄せられ、その注目度の高さが伺えました。すでにWebから無償ダウンロードできるのですが、今後さらにアップデートしていけば、ビジネス化の可能性をもったソフトウェアになるのではないかと期待しています。今回は、そんなとびきりのサービスを生み出した制作チーム「priMus」のみなさんと少し話をしてみました。
———:難関を勝ち抜いて、みごとに最優秀賞を受賞し、来賓企業を含めて非常に注目を集めましたね。おめでとうございます。本日は、その開発秘話や今後の展望を尋ねたいのですが、まずはじめに、みなさんのプロフィールを教えていただけますか?
増澤:僕たちのチームは、全員2年生なのですが、学科はまちまちです。僕は4年制のITエキスパート学科の増澤優俊です。兵庫県立姫路別所高等学校の出身です。
池内:3年制のITスペシャリスト学科、木内昭英です。出身高校は兵庫県立加古川北高等学校です。
甲斐:ITスペシャリスト学科の甲斐智之です。出身は兵庫県立東播工業高等学校です。
芥川:ITエキスパート学科の芥川修平です。姫路市立琴丘高等学校の出身です。
———:ありがとうございます。まず、みなさんがITを学ぼうと思ったきっかけは何ですか?
増澤:高校生の頃に自分がやってみたいなと思ったもののなかで、ITがもっともハードルを高く感じたんです。だからこそ、しっかり学べたら強い武器になるだろうなと。
池内:僕は、小学生の時にパソコンが好きな先生がいたんですが、その先生が「これからはITの世界だ!』と仰っていて、なんとなく頭にあったんですよ。それで、携帯電話が普及しはじめた頃に、改めてITエンジニアという職業を知ったんです。時代の最先端を先取りしておいたら役に立つだろうという思いと、世の中を支える“縁の下の力持ち”になってやろうっていう思いから、IT分野を選びました。
甲斐:僕は中学生の時に、Webサイトの制作やデザインをしていたのですが、その公開方法やWebサーバーについての知識が全然なかったので、そういった知識を学んで、自分でサイトやソフトをつくれるようになりたいと思い、IT分野を志望しました。
芥川:僕はみんなに比べて単純かもしれませんが、中学2年生ではじめてパソコンを触った時に、すごく感動したんです。それからずっとパソコンを使用していたんですが、そのうち「使う側」より「つくる側」になりたいと思うようになりました。
———:なるほど。当たり前の話ですが、パソコンや携帯電話など、みなさんの世代ではITは身近な存在になっていたんですね。では、なぜ神戸電子を選んだのですか?
増澤:兵庫県下の情報系の学校のなかで、将来IT系の職業を目指せるなと思ったのが神戸電子でした。4年制のITエキスパート学科を選べば、時間をかけてしっかり学べると思ったんです。
池内:僕はまず関西圏でどこが一番有名か、どこが一番いいのかな、というシンプルな動機で調べていた時に神戸電子を知りました。それで体験入学に来てみた時に、ここでなら自分の学びたいことができるな、と直感的に感じたことが決め手でした。
甲斐:僕も体験入学に参加したのですが、先生方や先輩方がすごく丁寧に学校のことを教えてくれたのが印象に残ったからなんです。「教えてくれる人」がたくさんいる環境、イコール、一番学びやすい場所なのかなと。
芥川:僕は、出身校から神戸電子に進学した先輩に、直接、神戸電子についてお話を聞く機会がありました。「来たら身になることが学べるよ』という先輩のアドバイスを受けて、この学校を志望したんです。
———:なるほど。志望理由は、みなさんそれぞれですね。では、みなさんが今回つくった ランチャーについて、概要を簡単に説明してもらえますか。
池内:僕たちが開発したランチャーには、“蘭ちゃん”という名前が付いています。機能としては、主に3つ。1つ目はデスクトップの整理機能。Windowsのデスクトップ画面は、Macと違って、ファイルなどのアイコンを自由配置することが基本的にはできないんですよ。でも、蘭ちゃんを使えば、アプリを自由に配置することができますし、パネルをつくって複数のアイコンをグルーピングすることも可能です。たとえば“仕事用”というパネルによく使うアプリをひとまとめにしておけば、わざわざ検索したり、探し出したりする手間を省くことができます。パネルごとにカテゴリ分けをしたり、一度の操作でまとめてアプリを起動することもできます。2つ目は、検索機能。Windowsに搭載されているExplorerは、MacのSpotlight検索に比べて、検索速度がすごく遅いんです。蘭ちゃんでは、検索バーに単語を入力すれば、求めている情報を即時に発見することができます。MacのSpotlight検索にも引けをとらない速度です。コンピュータ内のファイル検索だけではなく、Wikipediaとも連動しており、ちょっとした単語を調べたい時に、わざわざブラウザを立ち上げる必要はありません。瞬時に、目的に到達できる辞書のような使い方もできます。そして、3つ目はカスタマイズ機能。アプリのアイコン画像からパレットの背景まで、ユーザーの好みに合わせて自由にカスタマイズすることができます。
———: Windowsの検索機能の遅さや機能性の低さに、ストレスを感じていらっしゃる方は多いでしょう。僕個人の感想としては、素で欲しいなと思いました。MacのDock機能、あのアイデアを思いついてデモをつくった開発者は、その仕事ひとつで家が建った、いやマンション数棟分……なんて噂があります。この蘭ちゃんは、そんな可能性を十分感じるほどに、使い勝手がいいですね。アプリをつくるきっかけは何だったのでしょうか。
増澤:仰る通り、MacユーザーがWindowsを使った時にぶつかるストレスがきっかけでした。どうしてMacのような自由度の高い整理ができないのだろう。なぜ検索がこうも遅いのか。
———: Windowsは、Macに比べてデスクトップのUIやUXが遅れているように感じますね。
池内:そういった不満を解消するために、このアプリが生まれたと思っています。
———:ちなみに、このアプリのバージョン対応はどこまで完成されていますか?
木内:WindowsOSのすべてを対象に考えていまして、現在、Windows7以降はテスト済です。
———:GoogleやAppleのエンジニアたちは、アイデアをすぐにプロトタイプに落とし込み、新たな価値をどんどん生み出しますよね。蘭ちゃんにも、そんなスピード感があるといいです。たとえば、開発スピードをアップするために、この蘭ちゃんも、マネタイズできないでしょうか?
池内:僕たちも何度かそれを考えました。お金が目的ではなく、まずはたくさんの人に使ってみてほしいという気持ちが強くて、Web上に公開し、一般の方にもダウンロードしていただけるようにしています。
(リンクペースト 「蘭ちゃん」ダウンロード用HP:launchan.dip.jp)
———:すばらしい考えだ!たくさんの人が求めるサービスであれば、おのずとマネタイズできるでしょう。以前、神戸電子の特別講義に、「CAMPFIRE」を運営されている石田光平社長が来てくださったことがありますが、蘭ちゃんをよりよく機能アップしていくのにクラウドファンディングを活用して資金集めをするのもいいかもしれませんね。今の時代、サービスに価値があれば、応援や寄付という形もある。このサービスをきちんとアップデートしていけば、ニーズはとても強く広いものだと感じました。UI/UXに関してはMacが先行していますが、ユーザー数に限って言えば、Windowsの方が圧倒的に多い。Windows関連の課題解決は、大きなビジネスにつながる可能性を秘めているし、このサービスはとてもタイムリーでしょうね。学習の成果物で終わるのではなく、早く世の中に出して欲しいなと思っていたので、今日「蘭ちゃん」のWebサイトを見ることができて安心しました(笑)。リリースに向けてもきちんと手を打っていることに、感銘を受けました。
全員:ありがとうございます!
———:神戸電子では、来年から新たに「Webエンジニアコース」を新設する予定です。Webサービスを創造できるエンジニアを育成するコース。そのカリキュラムの柱となる領域は「ビジネス」「デザイン」「プロモーション」。この中で一番難しいのがビジネスだと思っています。今は、学生という立場だから、自由に時間を使えるだろうけど、卒業後もこのサービスを継続していくならば、どこかでマネタイズという問題にぶつかってくるはず。どうやって自分たちのクリエイティブを、サービスや商品を、お金に変えていくか。正解はひとつじゃないだろうし、日々、どんどん進化していくので、そこにアンテナを張っておくことが大切ですよね。
———:世間では、それほど話題にされていませんが、神戸市がITを中心としたスタートアップの直接的な支援として7500万円の予算を設けることを決めています。全国でも初の試みではないでしょうか。たとえば、君たちのような若いチームが「アプリを世に出したいが、資金がない」といった時に、市が助成金を出してくれる可能性もある。
池内:それって、自分たちで志願すれば、市が支援金を出してくれるってことですか?
———:そうです。具体的な開始時期はまだ未定のようですが、おそらく遠くない話ですよ。また、スタートアップを志望する人たちが集まる「場所」を、三宮駅前につくるという構想も動き出しているし、優秀な人をシリコンバレーに派遣するという案もあるようです。起業という選択肢は、こあれまでハードルが高いものだったと思いますが、さまざまな支援が出てきたので、みなさんも是非ウォッチしてみてください。ようやく時代が動き出しました。遅いぐらいですが、日本初のスタートアップ支援の試みが、この神戸で起こるのは嬉しいですよね。
池内:そうですね。そういうチャンスが近くにあるのであれば、ぜひ参加してみたいなと思います。
———:それから「Code for Kobe」をご存知ですか。神戸という地域が抱える課題を、テクノロジーを活用して解決しようというコミュニティです。若いITエンジニアが集まっているので、在校中に交流してみるといいですよ。では、最後の質問ですが、蘭ちゃんの運営は、今後も継続していくのですか?みなさんの展望を教えてください。
池内:僕はもっとスマートフォンを便利に使いたいと思っていて、蘭ちゃんをAndroidに対応させたいと考えています。なので、Androidの開発環境を勉強しています。
芥川:僕も「蘭ちゃん」をより便利に、使いやすくしていくために勉強中です。
甲斐:今は授業で学んだことを蘭ちゃんで復習をしている感じです。とくに力を入れたいのは、注目を集めているコンテナ型の仮想化ソフトウェア「Docker」。今回の「蘭ちゃん」の開発にも取り入れています。
増澤:僕は、今回Webページのコードを組む際に、知識が浅く、時間がかかってしまったんです……。これからはどんな情報にも、Webの知識は必要だと思うので、もっと勉強したいと考えています。
———:とても情熱的な姿勢に感銘を受けます。これだけの意欲と技術に満ちた人たちが集まっているのですから、多くのチャンスがやってくるでしょう。ぜひ学校を飛び出して、世界の最先端に食らいついていって欲しいです。本日はありがとうございました。みなさんの今後のご活躍を期待しています。