「 神戸電子でサラウンドの可能性を語る 」DTMマガジン ’14 6月号 掲載記事

2015.10.14

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DTMマガジン写真 690

昨今、街中のサウンドデザインに関する情報や、サラウンドを用いたアートインスタレーションの発表が増えて来ましたね。昨年、この分野の世界的第一人者 katsuyuki seto さんと対談する公開セミナーを実施しました。DTMマガジンの一コーナーとしての企画でした。同誌の記事として掲載されたものを編集部に特別に許可をいただき、ここへ転載します。

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Future of 3D MUSIC

神戸電子専門学校でサラウンドの可能性を語る

この連載では、サラウンド音響デザインを世界的にリードするkatsuyuki setoが、さまざまな業界人と対談していく。サラウンドのクリエイティブ面から、ビジネス面までいろいろな切り口で語っていただく中で、これからのミュージシャンの指針となるような内容をお伝えしていこう。
今回は、神戸電子専門学校の学生の前で行なわれた、サラウンドの可能性についての討論会の内容をお伝えする。校長の福岡 壯治さんのほかDTMマガジンの萬 健一郎も参加した。

■サウンド・デザインにビジネス・チャンスが

DTMマガジン(以下DTM):レストラン、バーなどの商業施設での、katsuyuki setoのお仕事とは、どのようなものなのですか?

katsuyuki seto(以下 seto):僕のやっていることは、現在の音楽業界のビジネス・モデルとは異なります。制作という部分だけでいうと、レコーディングをして、ミキシングをしてというところは一緒ですが、アウトプットが違ってきます。Blu-rayとか、CDとか、iTunesで売って、収益にするというわけではありません。クライアント、要するに、誰が買ってくれるかというのが、決まっているんですね。
 アーティストのカリスマ性のようなブランドとしての音楽を売り出すというよりは、レストランやバーのようなクライアントがイメージしているものを、クライアント自身が形にできないので、僕がやりましょうというスタンスです。それが僕のいうサウンド・デザインで、当然、サラウンドをいうものをベースに置いています。

福岡さん(以下敬称略):そういったお店を利用するお客さんが、ここはkatsuyuki seto作だからとか、サウンド・デザインに力を入れているねといったことまではわからないにしても、音環境的にこのレストランはちょっと違うよねとか、このバーは上質感があるよねとか、なんとなくでも感じてもらえるようになることは、これからの音楽業界にとり、とても意味のあることだと思います。
 一般のお客さんの音の感度が上がってくると、katsuyuki setoの手がけるお仕事がもっと増えるし、それはここにいる学生諸君の音楽で食べていく可能性の高まりを意味しますし。
 21世紀のキーワードは、心地よい時間をいかに過ごせるかということにつきると思います。その点、身の回りの環境において音というのは、すごく大きな位置を占めていますよね。それを土地や建物をデザインする人がしっかり理解し、それに配慮された環境を作るために、サウンド・デザイナーに仕事を依頼する。早くそうなって欲しいものです。

seto:今まで音楽というのはエンターテイメントしかなかったんですよね。テレビやラジオでは、アーティストというのが常に出ていて、楽曲を演奏したり映画のBGMだったり…。でもそういう作品ができるまでには、エンジニアという人たちがいて、テレビやステージに出演している人をバックアップしているというのが、専門学校で勉強して分かったと思います。そういう風に一部分しか見られていないところで、サウンド・デザインも水面下で進化はしていっているんですね。
 サウンド・デザインというのはなかなかメディアに出ない。プレイヤーというわけでもないし、商業施設なので、自分で手を上げる感じでもない。そこのメインは建物や空間なので、そのお手伝いという位置づけになりますね〜。
 ただ、僕自身サウンド・デザインの仕事をする中で、音/音楽というものの可能性をすごく感じています。東京の駅などはラッシュ時など殺伐としていますが、たしかに最近、鳥の鳴き声がかかっていたりします。ですが、朝から晩まで同じ音だったりするので、あまりお客さんのことを考えているといえず、まだまだ発展途上というのが現状です。僕が手がけたラゾーナ川崎という施設は、時間帯は季節によってなる音が変わるように、緻密にサウンド・デザインを行ないました。

福岡:国土交通省のレポートでは、2050年までに全国の6割の市町村の人口が半減するとあります。教育や医療のインフラを維持できないレベルです。にも関わらず東京、大阪、名古屋の人口は現在より増えると推測されています。激的な都市化が進む中で21世紀のテーマである「心地よさ」を求めていく。直感ですが、五感の満足を高めていくことが近道なのだろうと思っています。中でも聴力を司る耳は、寝ていても使っている高度な器官であり、聴覚を満足させることはとても重要なことかと。
 都市の中において建築やグラフィック、プロダクトのデザインは、視覚と触覚を満たすことであり、その重要性は重々認識されていますが、そこからボコッと抜け落ちているのがサウンド・デザインではないでしょうか。だからこそこれはすごくチャンスになるのだと思います。

seto:サウンド・デザイナーが、面白いことを発信していかなければなりませんね。そうでないと、キャッチする側にとって魅力的なものにならないと思います。現在の音楽業界では、発信者が楽しんでいないという状況が蔓延しています。作り手も面白くないのはわかっているけれど、組織自体があまりにも大き過ぎてすぐには変えられないんですね。
 だから今後、みなさんのような個人で動けるような人達って強いんです。特に個人で動くには、サウンド・デザインって会社にする必要がないんですよ。デザイナーですから、自分が発信していってこうしましょうよということに、株式会社は必要ありません。もしくは、会社としてしっかりやっているところに、自分が能力を持って入っていくというやり方もあると思います。

DTM記事

■エンジニアリングとクリエイションの架橋

seto:サラウンドに関わるお仕事を挙げると、まずは映画のMA(※)ですね。さらには、地上波の画質がこれから4Kになっていって映像が綺麗になっていく中で、サラウンドもくっついていかなければならないでしょう。2020年のオリンピックには8Kになるといわれています。
サウンド・デザインということに対して具体的な教本はないですけれど、ビジネス・チャンスがすごくあるといえます。皆さんのサウンド・デザインというものに対する発想が可能性を広げていくと思うので、型にはまらずに音でこういうことができたら面白いよねと純粋な気持ちでクリエイティブしていければ良いと思います。
 前例のないことなので、企画書や見積書の書き方から考えていかなければなりませんが、ビジネス的にチャンスがあるということだけは自信を持っていえますね。

DTM:建築家とタッグを組んで、一緒に企画を練ってクライアントにプレゼントする、ということもできるかもしれませんね。

福岡:サラウンドをやらせてくれる確固たる業界が存在し、そこに飛び込めばすぐに職が保障されるよといった状態には無いと思います。ただ、専門学校や大学が設置する多種多様な学科の先に繋がる多種多様な業界もみな’確固たる’の冠を脱ぎ捨てている。それぐらい世の中の変化が大きく起こっています。
 amazonに代表されるようなグローバル・ビジネスモデルがどんどん増えており、様々な業界を再編していますよね。これをどう捉えるかはとても重要なことだと思っています。長いものに巻かれやられてしまうと捉えるか、そうかもう人と同じことをしなくて良い時代が来たんだなと捉えるか。
 全自動洗濯機が出てきた時は、主婦が皆ハッピーになりました。でも、今のテレビがこれ以上薄くなったとしても、そうはならないのではないでしょうか。今ではIKEAのような家具屋でもテレビが買えますし、テレビを作るメーカーはそんなに多くは必要なくなりました。その分逆に、冒頭に話した心地よい時間をいかに過ごせるかに向かえるようになったと言いますか、人と同じことをしなくて良くなったというのは、そういうことです。
 こういった状況のなか、自分たちのもの作りは何かを考えていくと、神戸電子がその全学科でもって追いかけているエンジニアリングとクリエイションを架橋することの強みが、今後生きてくるという時代になってくると思います。卒業後もここは継続して追いかけていって欲しいところです。

DTM:誰に向かったものなのかということが、ビジネスということだと思うのですが、目新しいこれまでなかったもの、自由な発想で作ったものに反応するのはお金持ちです。さらに、雑誌的にもそういう新しい発想のものを扱っていきたいというのがあります。
 今のkatsuyuki setoの状況が、クラシックの作曲家モーツァルトの状況に重なる感じがします。彼は最初、貴族などのお金持ちのためにオーダーメイドの音楽を作っていましたが、次第に市民に対して作るようになりました。当時の社会要因などさまざまな要素もありますが、オーケストラを使った音楽をより一般に浸透させたといえるのではないでしょうか。
 サラウンド音響を取り入れているのは現在、予算のある施設や店舗だけですが、次第に一般に浸透していくものだと思うので、それを正しく使える技術や、特性を十分発揮できるカッティング・エッジなコンテンツが必要になってくるでしょう。また、映画中の音楽や効果音のほか、独立したサラウンドの音楽ソフトというものも出てくると思います。学生の皆さんがサラウンドで、アッと驚くようなことをしてくれるのを期待しています。

seto:映画とかテレビですと5.1chサラウンドとなりますが、サラウンドとはスピーカーの数を限定するものではありません。僕は100chのスピーカーを想定した環境を考えたこともありますし、とうとう球体の11chのスピーカーを設計して作ってしまいました。音響にこだわっていくとサラウンドというのはすごく幅が広いので、それを念頭に置いて、皆さんがサラウンドで何ができるのかということを考えて試行錯誤していってください。

福岡:サラウンドがいいのは、エンジニアリングとクリエイティブが分業化していないところです。両方できる人が創っている。サラウンドができるとうことは、存在として本当に強いことです。そうなるには実際に手足を動かして様々な実験をすることが大切なのではないでしょうか。katsuyuki setoのお話を聞いて、いろいろなところを突いおられるなと思ったでしょう。学生という与えられた時間を最大限活用し、あらゆることを突いていって欲しいなと思います。

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katsuyuki seto プロフィール

3Dサウンドデザイナー/プロデューサー。『3D MUSIC』という新たな音楽ジャンルを確立させ、音で空間を演出する世界初の3Dサウンド・ デザイナー。スタジオ スペース・ラボ運営。

Studio Spacelab
5.1ch サラウンド・ミキシングを行なえる数 少ないスタジオ。
[お問い合わせ/ご質問はこちら] スタジオ スペース・ラボ  http://studio-spacelab.com  e-Mail: spacelab.com@live.jp

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神戸電子専門学校 校長
福岡 壯治(ふくおか そうじ)

1964年神戸生まれ、神戸育ち。ゲームソフト開発技術者から転身して現職。
2008年サラウンドカリキュラム設置。音楽の街神戸を創る会世話人代表。デザイン都市神戸創造会議委員。Master Beat Kobe 名義にてDJ活動中。

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DTMマガジンエディター
萬 健一郎(よろず けんいちろう)

この連載のほか、katsuyuki setoの「5.1chワークショップ」、サラウンド・コンテスト、KONAMIコンテスト、「IRMA MUSIC UNIVERSITY」、藤巻 浩氏の作曲連載などを担当。

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◆神戸電子専門学校
兵庫県神戸市中央区にある、情報関連の専門学校としては西日本最大級の専門学校。ITやエンジニア系等の分野だけではなく、サウンドやゲームソフトといったエンターテインメント分野からデザイン分野にわたり、15学科を擁する総合学園。サウンド分野では、サラウンドや音響効果の教育の一環で参加した映画作品が、カンヌやベルリン等の主要な国際映画祭に次々出品されるなど、注目を集めている。

学校法人コンピュータ総合学園 神戸電子専門学校
〒650-0002 神戸市中央区北野町 1-1-8 TEL. 078-242-0014 / FAX. 078-242-0038
【公式サイト】 https://www.kobedenshi.ac.jp

Recording Studio 690
DS Lab. 690
Sonic Hall 690

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出典: 月刊DTMマガジン2014年6月号
http://www.dtmm.co.jp/

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