生田神社の夏祭りで感じた、音楽とお酒のパワー

2014.11.12

CATEGORIES:学校・教育 ,神戸 ,音楽

DSCN2430_

すっかり秋の装いになりましたが、記憶の整理も含めて夏の思い出を振り返ってみます。今夏、思い出深い出来事のひとつが8月に開かれた生田神社の夏祭り「大海神社祭(たいかいじんじゃさい)」です。

神主さんより、神戸電子で「夏まつりのサウンドステージを受け持ってもらえませんか?」とお声がけいただき、サウンドテクニック学科の教員、学生とでお受けしました。生田神社さんとは、僕が代表世話人をしている「音楽のまち神戸を創る会」の事業の一つ、「市民が街中で音楽を楽しむ」活動 ‘078’ を神社内で開催させていただいてからのご縁です。078では、当初「境内」での演奏と聞いていたのですが、フタをあけてみたら舞台はなんと「本殿」。雅楽上演の前に、アンビエントな電子音楽を奉納として響かせました。

DSCN2432_

生田神社は神戸という地名の由来として知られています。日本書紀にも記述が残る由緒ある神社で、ふだんは静かで厳かな空気に満ちています。しかし、この夏祭りに限っては、静から動へ、およそ神社の催しとは思えないような盛り上がりを見せます。境内に音楽ステージやDJブースが組まれ、ジャズ、声楽にロック、アイドルユニットによるライブやダンスなど、さまざまな催しが続きます。規制の多い日本の都市部でこれだけの音量を許容し、広く若者文化を受け入れている神社はそうそうないでしょう。さらに、日暮れからは夜店ブースが開き、神戸・灘の蔵元である剣菱酒造や神戸ワインをはじめ、地酒がずらっと並びました。

DSCN2428_

アッパーな電子音が響く本殿前で踊るダンサーの姿、お酒を片手に境内で沸き起こるコール&レスポンス……神社であることをつい忘れてしまうような盛り上がりを見せます。しかし、古来より縁日には芸能の奉納が付きものであり、“人が集まる場をつくる”という意味において、神社はオーガナイザーのような存在だったのでしょう。そこでは、笛や鉦の音はもちろん、音頭にあわせて“舞い”があり、お酒で神様を迎えたわけです。人が集まる場所をつくるための手法はたくさんありますが、あらためて“音楽とお酒”の力、そして日本古来のお祭りの魅力を感じました。

DSCN2420_

さて、神戸電子は今回、3日間にわたってサウンドステージを任せていただけました。ステージの設営から音響機材の調整、運営の進行まで、サウンドテクニック学科の学生が精一杯の力を発揮してくれたように思います。やるからには、毎回、音の解像度にこだわった音出しをこころがけていますが、今回もオーディエンスの皆様、一様にそこを評価するお言葉を頂きました。今回サウンドステージを任せてくださったのは、このこだわりへの信頼があってこそ。降り止まない雨や突然のトラブルにもめげず、学生たちも素晴らしい“奉納”ができたのではないでしょうか。

生田神社の方々も喜んでくださったようで、すでに来年の続投要請も。今年以上に、壮観なお祭りになるよう頑張りたいと思います。   

pagetop

ポートランドにみる“これからの都市”のあり方(後編)

2014.10.6

CATEGORIES:海外 ,神戸

portland2

さて前回に続き、米国のクリエイティブな都市、ポートランドを訪れた経験から“これからの都市”のあり方についての所感をお届けします。

前編で書いた通り、ポートランドは“身の丈主義”を通じて、日常の暮らしに豊かさが溢れていました。生産者から食卓までミニマムな流通経路を用いた地産地消が確立され、職人から一般家庭まで自分たちでつくれるものは何でもつくるDIY精神が根付いています。大量生産・大量消費が主だった暮らしは、過去のものになり、いま、新しい時代の暮らし方のモデルケースとして、ポートランドが世界中から注目を集めています。

でも、僕が強く思ったのは、ポートランドの暮らしって、ひと昔前の日本には、当たり前にあった、ということ。地元の食材を近所の商店街で買い、日用品は個人経営の荒物屋で手に入れる。着られなくなった服は雑巾にして再利用し、ちょっとした家具なんかも釘とトンカチでつくっていた。経済の発展とともに、必要でないものまで買うようになり、古くなったらすぐ捨てる。そんなサイクルが主流になりましたが、人の暮らしというのは元来、自分の手の届く範囲で完結させるのがもっとも心地よく、無駄のない生活なんじゃないでしょうか。

今、そんな暮らしを人々は求めているんだと思います。大量生産・大量消費の渦に飲み込まれ、お金や価値観をすり減らし続けることに疲れてしまったのでしょう。もっと物事の本質的な価値を重視し、均質に与えられるものではなく、“自分にとっていいもの”を求めることが理想になりつつある。だからこそ、ポートランドの身の丈主義な街のスタイルが、今もっともカッコよく映るんだと思います。余談ですが、テレビ番組の「ザ!鉄腕!DASH!」(日本テレビ)が人気なのも、身の丈主義の豊かな暮らしを手づくりしているからではないでしょうか。こんな生活うらやましいなぁ……と思いながら観ている人も多いと思います。

DSCN2259

DSCN2239

今回の出張のなかで考えていたのは、ポートランドのスタイルを神戸の街にいかに取り入れるか、ということでした。神戸には魅力的なモノやカルチャーがたくさんありますが、まだまだそれを活かしきれていない。それは均質化されてしまった都市に、神戸の街がもつ「らしさ」が埋もれてしまっているからでしょう。これは文化的な話ですが、東京一極集中の波が衰え、各地方都市のアイデンティティー、特色化が強く求められる昨今ですが、神戸の街がより豊かになるためには、今後、身の丈で考える街づくりが必要になると感じています。

幸い神戸には、神戸ビーフを代表とする畜産部やや新鮮な海産物に農作物など、上質な食材が抱負に有ります。また、居留地に見られる西洋文化や、南京町のチャイナタウン、在日インド人のコミュニティと、多様なカルチャーが混在し、ジャズやコーヒー、スイーツ、それにファッションなど、海外の文化をいち早く取り入れ国内に発信してきました。これらの強みを活かしながら、神戸の街が成長していけるとベストだと思います。神戸でしか味わえない料理、神戸でしか買えないもの、神戸でしか体験できない暮らしが、街の隅々まで浸透していったなら、素晴らしいことだとは思いませんか。

DSCN2169

そんな街づくりのなかで、神戸電子は一体何ができるのか、というのも重要なことです。ポートランドには「Pacific Northwest College of Art(PNCA)」というアートカレッジがあります。PNCAで生み出されるアートやデザインが街の暮らしへと浸透し、人々を豊かにしている。いわばポートランドのクリエイティブを担う拠点です。これを神戸電子で実現するのが僕の野望のひとつ。神戸電子から生まれる新しい発想や技術が、神戸の街と結びつきながら、近隣の人々の暮らしに役立つ。ポートランドの出張を通じて、あらためて神戸電子の掲げる“地域密着”が鮮明になったように思います。

最後に、ポートランドで感じたのは、ひとつの家族のような小さな共同体の強さです。神戸の街も、そんなコミュニティを築ければいいなと。いや、この記事を読まれた皆さん、ぜひ一緒に神戸をそんな街にしていきましょう。

pagetop

ポートランドにみる“これからの都市”のあり方(前編)

2014.9.9

CATEGORIES:海外 ,雑記

DSCN2162

去る6月の3日から7日にかけて、アメリカ北西部にあるオレゴン州のポートランドへ行ってきました。ポートランドと聞いて「おっ」と思った方は、都市デザインや環境設計について関心の高い方ではないでしょうか。

ポートランドは「アメリカで最も住みやすい都市」に選ばれ、とくに35歳以下の若い人にとって、いま一番アツい街といわれています。今年に入り、日経ビジネスやブルータス、ポパイ等国内の雑誌でも集中的に特集されていますね。
その魅力を紹介した吹田良平さんの本『グリーンネイバーフッド―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた』(発行:繊研新聞社)に出会ったのが3年ほど前。昨年神戸モトマチ大学の有志で視察を組んだのですが私は行けず、今年やっと念願が叶いました。実際、街のスタイルといい、そこで暮らす人々といい、ポートランドの街はあまりに魅力的でした。ポートランドで見聞きした街づくりから、“これからの都市”のあり方について、2回にわたって所感をお伝えしようと思います。

そもそも、なぜこれほどまでにポートランドが人気なのか。その答えは“身の丈主義”にもとづいた街の独自性にあります。これだけではピンとこないと思うので、日本の街と比較しながら、もう少し詳しく説明しましょう。

たとえば食べ物でいうと、日本はどこに行っても全国チェーンのお店が建ち並んでいますよね。神戸でも東京でも、はたまた北海道でも同じ味が提供されます。便利といえば便利なのかも知れませんが、それは独自性のない均質化されたもの。ポートランドは人口あたりの割合で、世界一レストランの多い都市です。チェーン店はほとんどありません。お店の多くが個人や地元の小さな会社によって経営され、お店ならではの味や空間、サービスを提供しています。消費者も、大量生産品や輸入食品に頼らず、自分たちが納得できるものを、自分たちの目や手の届く範囲で受け入れる。その最たるものが、「地産地消」の活発さでしょう。 ポートランド近辺には農家がいくつもあり、新鮮な食材を街へと卸しています。エスニック料理など輸入食材を扱うお店でも、オーナーが現地できちんと買い付けを行うなど、食材ルートの“見える化”がしっかりしています。

日本のスーパーでも「近隣農家の○○さんがつくりました」といった野菜や果物が並ぶようになりましたが、最近、世間を騒がせた海外の期限切れ食肉問題などを見ると、日本の食に対する現状はまだまだ不安です。生産者と消費者の距離が遠く、自分が口にしている食べ物が一体どこから来たのかが分からない、という問題が起きています。東日本大震災やTPPをきっかけに、日本国内でも地産地消や週末農業など“自分の目の届く範囲のものを食べよう”という傾向が強まっていますが、そんな動きをいち早く取り入れ、実践してきたのがポートランドです。街のシンボルとなっている「ファーマーズマーケット」は、地元の生産者や農家が集まり、消費者と対面で販売するスタイルの市場です。鮮度の高い安全な食材を提供できるだけでなく、収入の大部分が生産者に還元されることで、良質な食材の持続的な生産が可能になっています。実際、ファーマーズマーケットのひとつに足を運んだのですが、市場に並んでいる野菜の色合いの力強さにしびれました。

DSCN2204

DSCN2207

DSCN2293

“身の丈主義”としてもうひとつスゴイなぁと思ったのは、家具でも小物でも、つくれるものはとにかくDIYしてしまうところ。ポートランドの街を歩いていると、いたるところで工房やアトリエを見かけます。廃材を使ったカトラリーショップ、アンティーク家具をリメイクしたセレクトショップ、あらゆるパーツをオーダーできる自転車工房……と、枚挙にいとまがないほど。さらにリサイクルショップに行くと、テーブルや棚はもちろんですが、なんとトイレの便器やバスタブまで売っているのです。いまの日本なら、バスタブが古いから交換しようとなったとき、リサイクルのバスタブを買うなんてまずあり得ないですよね。工務店や施工業者を呼んで、つくり置きのユニットバスを風呂場にはめ込んで終わりでしょう。

DSC_7622

DSCN2245

ポートランドでは“街の人”がつくった、あるいは使った家具を、余すことなく“次の街の人”が使う。石鹸も、お皿も(もちろんそこに並ぶ食材も)、テーブルもソファも、はたまた家さえも、みんな“Made in Portland”。この姿勢には、本当に感心しました。

ここで前編終了です。どうでしたか? 今回は、ポートランドという街の魅力について書きましたが、次回は、ポートランドで感じたことを神戸という街に置き換えて考えてみたいと思います。

pagetop