平面的なイメージが強いアニメの世界ですが、いまやさまざまな作品に3DCGの技術が使用されています。簡単に解説しますと、3DCG とは、2DCGに「奥行き」を足し、3次元の描写を平面場投影したCGのこと。アニメやゲームをはじめ、CADなどの多様な分野に使用されています。
動きの描写に関して、演算で自動処理がされるため、2Dアニメのように1コマずつ描く必要がありません。画面上でつくった立体を、画面上のカメラで撮影する……というイメージがわかりやすいかもしれませんね。空中を縦横無尽に戦闘機が駆けるようなアクションやロボットの飛行など、カメラワークが頻繁に移動するアクロバティックなシーンが劇場アニメだけではなく、30分のテレビアニメでも見られるようになったのは、3DCGの技術進歩があってのことなのです。
さて先日、本校で3DCG業界を牽引する方々に来校いただき、3DCGの持つ特徴やその魅力、アニメへともたらす影響、今後の展望などについて語ってもらいました。その名も「3DCGでアニメを変えた男たちのロマン、その愛」。登壇いただいたのは、アニメに新しい風を吹き込んだ以下の方々です。
有限会社神風動画の水崎純平氏、株式会社グラフィニカの吉岡宏起氏、株式会社サンジゲンの松浦裕暁氏、株式会社ポリゴン・ピクチュアズの塩田周三氏。
各社の例を挙げると、神風動画はアニメ「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのオープニングや、国内外で話題になった理化学研究所のPRアニメ「播磨サクラ」などの制作。グラフィニカは「劇場版PSYCHO-PASS サイコパス」や「楽園追放 -Expelled from Paradise-」、サンジゲンは「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」「キルラキル」の制作を。ポリゴン・ピクチュアズは「シドニアの騎士」や「山賊のむすめローニャ」などを手がけられています。まさに3DCG業界の四天王ともいえる企業の代表者たちです。
というのも、今回の業界セミナーはCG-ARTS協会に企画協力をいただいた特別企画。CG-ARTS協会は、正式名称を「公益財団法人 画像情報教育振興協会」といいます。コンピュータグラフィックス関連のクリエイターとエンジニアの育成、文化振興を目的とする公益法人で、CGクリエイターや画像処理エンジニアなどの検定を開催しています。登壇された企業は全て、CG-ARTS教会とパートナーシップを結んでおり、これほどのメンバーが一同に会する機会はそうそうありません。すばらしい講座を神戸電子の業界セミナーとして開催できたことを光栄に思います。CG-ARTS協会と登壇者のみなさまには厚く御礼申し上げます。
さて、当日は学生・教員のみならず一般の方々にも多数参加いただき、会場となった北野館ソニックホールは満員御礼。いかにアニメカルチャーのなかに3DCGが浸透し、そのアイデアや技術に対する期待値が高いかが感じられました。
どういった人材が業界において求められるかというと話題に関して、登壇者のみなさんが口をそろえて仰っていたのが、「臨機応変な人間が欲しい」ということ。技術の発展によって、モノのつくり方はどんどん変化します。「変化を嫌がらず、新しい技術やツールをどんどん使えて、変化すること自体を楽しめる人間であることが、よりフレキシブルに、より創造的なアウトプットをもたらす」と松浦氏がお話されると、吉岡氏も「僕もそれが言いたかった」と。
また、何をもって「腕」とするかはわからないが、まずは「人間力」が必要だとも。自ら発信をする、わからないものは人に聞いてアクションを起こすことが重要と塩田氏がお話しされていました。例として水崎氏が挙げていたのが、「生意気で喧嘩になりがちな奴はじつは好き。味わいが出てくるので。ぶつからないように合わせてくるよりは、ぶつかってくれる方がいい」というお話でした。衝突があった方が、仕事の上でよいパートナーになるのだそうです。意外に感じるかもしれませんが、業界内ではイエスマンであればあるほど、離職率が高いのだそうです。よい作り手になる人間は、できないならできないとハッキリと言う、さらに「○○はできないけれど、○○ならできる」と代案をきちんと出せる人間だということ。仕事である以上、オーダーはクリアしなければいけませんが、自分の意志を持ち、しっかりと意見できる人材が欲しいと、松浦氏が締めくくってくださいました。会話のなかで出てきた「技術は価値を生み出すものでしかない」という言葉は、私も覚えておきたく思います。専門ツールとしてのソフトを使えたり、作業が速かったりといった、実務的な事柄に関しては二の次。まずは変化を恐れずに行動すること、そして他者とのコミュニケーション能力をどんどんつちかってほしいとの思い、我々学校関係者と強く共有できるものです。
講義後、登壇者のみなさまには、本校の3DCGアニメーション学科の作品公表会にご参加いただきました。第一線で活躍する4人のプロからアドバイスを貰うことができる……。学生にはまたとない機会です。2年生の学生たちが、それぞれ制作した作品をプロジェクターに投影し、プレゼンテーションを行いました。アニメ的なモーションが得意な学生、ゲーム的なモーションが得意な学生、フィギュアの原型となるモデリングが得意な学生……。それぞれの「好き」が形になった作品の数々、そのひとつ一つを丁寧に評価してくださいました。時には厳しい意見も発せられましたが、学生たちにとっては将来、業界の第一線でアウトプットしていくためのよい経験となったのではないでしょうか。作品を発表したのは2年生でしたが、公表会には1年生も参加。先輩方の作品や、それについて交わされる4人の意見を真剣な面持ちで聞いていました。
デジタル技術はめまぐるしいスピードで発展します。まだ完全にぬぐい去れない3DCG特有のモーションの違和感も、ソフトウェアや制作ノウハウの向上によって完全になくなっていくことでしょう。未来のアニメのつくり方を創造するのはみなさんです。どんな問題が発生しても、いかようにも変化できる、柔軟なクリエイターであってください。