「町並みを美しく見せる方法」「これからの木造建築とは」
建築業界が注目するテーマの数々を徹底解説!
2017年12月9日、「新しい技術で古い建築物を創る」という観点から、一級建築士としてさまざまなプロジェクトに携わっておられる、野村昌史建築研究所の代表・野村昌史氏による、建築・インテリア業界セミナーを開催しました。
まず、現在の仕事に役立っているという留学の経験について語られました。あこがれていたイタリア人建築家カルロ・スカルパ氏が学長を務めたヴェネツィア建築大学に留学。少ない学費で建築を志す者を受け入れ、しっかり学ばないと卒業できない大学の教育システムが、日本の教育環境とは大きく異なる点であるとのこと。
また、建築物を壊さないことで旧き良き美観を保っており、イタリアの建築士には新しいものを建てるよりも建築物を修繕し残す技術が求められるという文化に触れ、とても勉強になったと話されました。
そして、いくつかの町並みを画像で比較しながら分析。日本の都市の多くは、無秩序でチグハグな町並みが多いが、例えば現状3割から目標6割の建築物に統一感を持たせるだけでも、町の印象はずいぶん異なるとのこと。
それぞれの都市が持つ町並みや土地の文脈に即した方法で、町並みを修景する活動に積極的にかかわっていると話されました。
さらに、野村氏が携わった近畿・中部地域に建つ10の建築を題材に、建築物の構想に始まり、設計図面、見積もり、基礎工事から完成にいたるまでの経緯など、全体の流れについて詳細に説明いただきました。
また、木造建築の耐震性を高める研究への取り組みにも触れられ、材料強度を高めた「圧縮木材」の製造のようすを紹介。これを壁の材料にすれば昭和初期の一般住宅の約5~10倍、現代住宅の約2倍の強度を持つ「耐力壁」が実現可能で、デザイン性と強度の両方を併せ持つ新しい壁が生まれると語られました。「圧縮木材」を要所に使用し、格子のようにインテリアの一要素としても機能する「魅せる耐力壁」の試作品も画像で紹介いただきました。
最後に、今の若い学生からよく受ける質問として、「設計の仕事でどうすれば儲かるのか」というポイントを2つ述べられました。1つ目は、今の実力を一旦時給で考え、その時給が上がるように工夫すること。設計の仕事はスキルが増えるほど評価されることが多いため、図面、デザイン、構造計算といった異なるスキルを複数持てるように努力すること。
2つ目は、「生涯獲得賃金」への意識を持つこと。「今、得られるお金にこだわり過ぎないで、一生で得られるお金にも目を向けてください。今、勉強することは、将来の時給を上げる作業です。設計の仕事はスキルを得れば評価につながるため、年齢を重ねて技術が高まれば収入を増やせる可能性が高いので、努力を続けてください」というメッセージをいただきました。
さまざまな観点から建築業界にかかわる仕事について教えていただき、参加した学生たちにとっては大変貴重な時間となりました。
セミナー終了後は、体験授業にも顔を出してくださり、参加した来校者たちに直接指導もして下さり、良い刺激を受けたようでした。
得意分野を見つけて努力し、スキルにできれば未来が開ける。
野村昌史建築研究所 代表
一級建築士
野村 昌史氏
もともと伝統的な建築物を大切にしたいという思いが強かったのですが、日ごろから木造の仕事に携わることが多く、今の仕事のテーマの一つである「新しい技術で古い建築を創る」というコンセプトを思い立ちました。
ヴェネツィアに留学し、日本と全く異なるイタリアの風景を見て気づいたのは、建築物を単体ではなく町並みの一つとして考えることの重要性です。京都ですら町並みを見渡した時にバラバラに感じることが多い中、修景レベルのボトムアップを目指して、少しずつ美しい町並みを増やす活動を続けていきたいですね。
学生のみなさんが建築業界をめざす場合、まずデザインでもCADでもいいので何かやりたいものを見つけて必死に取り組んでほしい。それがスキルになって自信が身につけば、次のスキルを得るためのパワーにもなります。スキルを持つ者が輝ける業界なので、長い目で見て1つずつ地道に取り組んでください。
私も木造建築について数々の研究を行っていますが、将来世の中に役立つものとなるよう、じっくりと取り組みたいと考えています。
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