2023年10月14日(土)、『ソードアート・オンライン』や『ガールズ&パンツァー シリーズ』をはじめ、数々の人気アニメ作品で、音響監督として手腕を振るう岩浪 美和氏による業界セミナーを開催。「アニメーションの音響制作を志す学生へ伝えたいこと」をテーマに語っていただきました。
音楽や映像が好きだった青春時代。
2部構成で開催した今回の業界セミナー。オープンキャンパスで参加した高校生たちも参加した第1部では、自身の青春時代を振り返りながら、音響監督という仕事の魅力などについてお話しいただきました。
「今思えば、『音』が好きな子どもでしたね」。
小学生の頃はお父さんの歌をテープに吹き込んだり、中学生になってからは自分で作曲した曲を集めてアルバムを作ったり、早くも「音響監督」としての片鱗をのぞかせる岩浪氏。さらに高校に上がると、ご友人と8mmフィルムで映画を撮りはじめ、その中でもやはり「音」を入れる作業が好きだったそうです。
そして、専門学校の音響芸術科に進んだ岩浪氏ですが、「学生時代はあまり熱心な学生じゃなかったんですよ。授業をサボって映画ばかり観ていました(笑)。将来についても漠然としたままで、卒業後はたまたま学校に求人が来ていた赤坂の録音スタジオに就職しました」と学生時代を振り返りました。
「入社から1年が過ぎた頃、MA(マルチトラックオーディオ)を導入することになって、仕事の内容が大きく変わったんです。スタッフ全員がMAを扱うことが初めてだったので、私も自分なりのやり方で模索しながら必死に勉強しました」。その努力が実り、なんと21歳の若さでチーフミキサーに。そこから約6年の間に、テレビ番組やCM、アニメや映画など、ありとあらゆる映像作品を担当されたそうです。また、中でもドキュメンタリー作品は特に好評で、ミキシングエンジニアから少しずつ音響監督の道へ。以来、20代後半から現在までの30年以上にわたり数多の作品で、音響監督を務めておられます。
音響監督としてのこだわりとやりがい。
次にここから、音響監督として日々仕事に取り組む中で、大切にしている「こだわり」について語っていただきました。
「アニメ作品の場合ならシナリオや絵コンテ、原作などを読み込みながら、作曲家たちと最初に『一番良いシーン』の音楽を作曲します。そこから、明るいシーン用、悲しいシーン用のアレンジバージョンを作ります。テレビアニメは基本的に1話20分程度と短いので、悲しいシーンから20秒で明るいシーンに切り替わることがありますよね。例えば、『悲しいシーン用の音楽』なら、私はサビだけ取り出したピアノアレンジバージョンを作るようにしています。20秒程度と短すぎるので曲になりませんが、ピアノアレンジだとそれができるんですよ。これは他の音響監督の方はあまりやらない手法だと思います」と岩浪氏。
映画の世界では、「映像は涙を浮かべさせることはできるが、涙を流させるのは音楽」と言われ、かのジョージ・ルーカス氏も「映画の半分は音でできている」と言っています。
音楽を通じて、そのシーンをいかに輝かせられるか?
岩浪氏の言葉から、「日々の工夫が、作品をもっと素晴らしいものへと作り上げていくこと」を改めて知ることができました。
音のプロになるために、今、何をすべきか?
続いて第2部では、在校生のみ参加の業界セミナーということもあって、最先端のサウンドシステム「ドルビーアトモス」について取り上げるなど、より専門的な内容となりました。また、「音の仕事に就くために必要なこと」などについても語っていただきましたので、ここではそちらをご紹介します。
「社会に出ると、いくらキレイごとを言っても『どのぐらいお金を生み出せるのか?』が基準になります。そう聞くと世の中お金がすべてなのか?と思うかもしれませんが、平たく言えば『良い物』を作ればいいんです。作品の品質を上げて、自分の価値を上げる。そのためにも一生懸命に仕事と向き合って、たくさん勉強することが大切ですよね」と岩浪氏。百戦錬磨のプロフェッショナルによる言葉は、学生たちを大いに刺激したと思います。
また、業界を志す学生たちにこのようなアドバイスもいただいています。
「例えばゲームで遊ぶにしても、ただぼけーっとプレイするだけではダメです。『こんなに何時間も飽きずにプレイできるのは、どんな工夫があるんだろう?』と常に意識してください。もちろん、アニメや映画を観る時もそう、音楽を聴く時もそうです。『なぜ、この音楽はこんなに心地いいのか?』を自分なりに分析しながら一つひとつ答えを出していくこと、引き出しがどんどん増えて、それがプロになった際の『価値』へとつながります。学生時代はいろんなことに興味を持って、それを分析して、考えて、たくさん学んでください」と熱いお言葉をいただきました。
また第1部・第2部の両方の終わりには、参加者との質疑応答も行いました。担当した作品の中で一番のお気に入りは?音響監督として一番やりがいを感じる瞬間は?など、さまざまな質問に丁寧に答えていただき、こちらも大いに盛り上がりました。
業界の第一線で活躍する音響監督による言葉、アドバイスの数々は、「音」のプロフェッショナルを志す学生たちを奮い立たせ、また、数々の発見や成長をもたらしたことでしょう。貴重なお時間を本当にありがとうございました。