※この記事は、神戸電子ブログで2016年07月06日に掲載されたものを転載・加筆しています。※
ゲーム開発を学ぶにあたって、大切なことは「よいゲームを知ること」です。みなさんが普段から遊んでいるゲームは、みなさんにとって貴重なお手本になります。
今回はファミリーコンピュータの「スーパーマリオ(初代)」を題材に、いろんな注目すべき点をゲームプログラムを教える先生が解説します。
ゲームソフト分野って?
ゲームソフト分野は「ゲーム業界一直線!」を合言葉に、1年生の時からプログラミングに特化したカリキュラムを実践します。
また、1年次から作品制作に力を入れて取り組みゲーム業界への就職を目指すことになります。
ゲーム開発を教える教員が、学生たちに見て欲しいゲーム
ずっと3Dゲームプログラミングを教えている私ですが、
実はもっとも尊敬する市販ゲームがコチラです。
©1985-2011 Nintendo
任天堂の初代「スーパーマリオブラザーズ」です!
実に30年以上前という、在校生が生まれるずっと前の作品でありながら、
ゲーム作りの真髄がすべて詰まっている最高のお手本です。
今回はその序盤部分を4つのポイントで解説してみます。
※今回の画面写真は3DS上でプレイした「スーパーマリオブラザーズ」を3DS内蔵のMiiverseで保存したものを利用しています。
❶ルールが自然と身につく工夫
スタートボタンを押してゲームを始めたばかりの画面です。
みなさんはこの画面を見て何を思いますか?
ここだけでマリオの素晴らしい工夫が詰まっています。
まず、「危ないものがない」点です。
落ちる場所、襲ってくる敵、よけるべき物がなく、
プレイヤーはとりあえずボタン操作を試すことができます。
よく学生作品で、開始時点で敵が出現していたり、
いきなり難易度MAXだったりすることがありますが、
まずはプレイヤーに状況判断させる余裕を与えることです。
特に本作は初期のファミコンソフトなので、
アクションゲームに不慣れな人にも
自然とルールが伝わるようにする必要があったのです。
普通だったら主人公を画面の中心に置いてしまうところですが、
プレイヤーは「行き先はどっちなのか」すら知らないのです。
上記のレイアウトによって、「右に行くべき」ということがわかります。
もちろん左に行こうとしても行けません。
左方向にはスクロールしないことで「左には戻れない」ことも学習できます。
しばらく進むと点滅しているハテナブロックが目に入ります。
プレイヤーは「短時間で変化しているもの」に注目するので、
ここで「あれはなんだろう?」と思わせるわけですね。
叩いたあとのブロックが消灯状態になることで、
役目を果たしたことも示しています。完璧。
初めてのキノコです。ここも素晴らしいデザインです。
この絶妙な土管の配置! この見事な工夫がわかりますか?
初めてのプレイヤーには
「上から出てきたキノコを左右から回り込んで取る」なんて細かい操作ができないのです。
そこで何もしなくても土管に跳ね返ってくるようにしているわけですね。
そしてマリオが大きくなる。
プレイヤーは「キノコは取るべきなんだ」「キノコで大きくなれるんだ」と学習します。
なんて素晴らしい誘導でしょうか。マリオ最高!
踏んづけた敵がただ消えるだけでなく、
ちゃんと潰れている画像に差し替えているところもいいですね。
これによって「踏みつぶした」ことがよくわかります。
1-2は強制的に地下ステージになりますが、
ここでプレイヤーは「土管には入れる」ことを学びます。
今まで飾りだと思っていた土管は出入り口であることを知るのですね。
そのため、2周目以降のプレイでは
1-1にある土管にも入ろうとするわけです。
これによって「うまくなった自分」「詳しくなった自分」を実感できます。
❷滑らかに難易度を上げていく
ゲームはプレイヤーが徐々に、
しかも自然と成長していくように作るべきです。
いきなり難易度が上がれば投げ出してしまうし、
なかなか難易度が上がらないと退屈します。
マリオの場合はこのあたりも計算されています。
1-1の中盤で登場する階段状のブロック。
最初はスキ間に落ちてしまっても平気です。
直後に登場する同様のブロックでは真ん中が奈落になっています。
これだけでプレイヤーはハラハラしますね。
❸直感的で気持ちいい操作感
ジャンプの最高点は初速度によって決まるため、
ジャンプが始まってから高度を変えるのは処理的に困難なのですが、
マリオの場合はジャンプボタンを押していることで減速が抑えられ、
空中でもうひと伸びするように
高くジャンプするようになっています。
低いジャンプと高いジャンプを使い分けることは
マリオをプレイする上では重要な意味がありますね。
高くジャンプするにはボタンを長く押しているだけでいいのに、
思わず強く押してしまうところが
マリオの操作感の良さを示しています。
安易に2段ジャンプを入れる学生作品が多いですが、
それが最適なのかどうかをもっともっと考えてみましょう。
❹少ないデータで多彩に見せる工夫
初期のファミコンはハード的・コスト的な制限もあり、
とにかくデータの容量を抑えて作る必要がありました。
当時の色データは「パレット」といって
ピクセルデータと別に管理していたので、
色だけ変更して使う、という技が随所に見られました。
ハテナブロックの点滅は色が変化しているだけですし、
スターを取ったマリオも連続で色変えをしているだけです。
色を変えただけで地下を表現してしまうなんて斬新です。
背景の雲と草が実は同じグラフィックだということに気づきましたか?
とにかく容量を節約するための工夫ばかりです。
それでいてこれだけバラエティに富んだ表現をするなんて。
「スーパーマリオブラザーズ」の全容量はたったの40キロバイト。
つまり、この記事の画像1枚より小さいのです。スゴすぎ!
市販ゲームをじっくり観察しよう!
今回は序盤ステージだけを題材に解説しましたが、
とにかくスーパーマリオは素晴らしいお手本です。
常に手元において、いつでもプレイできるようにしておきましょう。
マリオ以外でも、市販ゲームは勉強材料として非常に有益です。
じっくり観察しながらプレイしてみましょう。
それはそうと、私はいつまで脳の一部を
1UPキノコの隠し場所の記憶に使ってるんでしょうか……。
©1985-2011 Nintendo
※今回の画面写真は3DS上でプレイした「スーパーマリオブラザーズ」を3DS内蔵のMiiverseで保存したものを利用しています。