映画やゲーム業界で活躍するFXアーティストの中には、海外で働くことを目指す人も多いです。
しかし、言語や文化の違い、働く環境の違いなど、不安を感じる点もあるのではないでしょうか?
今回は、ハリウッド映画の制作に携わる本校の卒業生にインタビューし、海外で働くことの魅力や挑戦、必要な準備についてお話を伺いました。
神戸電子で学び、海外へ──
映画『キャプテン・アメリカ』のFXアーティストに
Digital Domain
FX Artist
坪井 琢磨さん
岡山県立水島工業高等学校出身
神戸電子専門学校 3DCGアニメーション学科2019年卒業
2018年8月に「株式会社Anima」の学生インターンに参加。それをきっかけに2018年11月から神戸電子在学中に同社にFXアーティストとして早期入社を果たします。
2019年11月までAnimaに在籍し、2019年12月より「株式会社Megalis」にFXテクニカルディレクターとして移籍。
2024年8月よりカナダに移り、現在勤める「Digital Domain」社でFXアーティストとして移籍します。同社での最新実績として、マーベル映画『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』に携わります。(2025年2月時点)
写真ACによる、カナダ・バンクーバーの夜景
FXアーティストの海外生活:仕事と日常
世界トップレベルの制作会社が集結
カナダ・バンクーバーの魅力
現在、私はカナダのバンクーバーに住み、仕事をしています。ハリウッド映画の制作に携わっていますが、勤務地はロサンゼルスではありません。
ちなみにバンクーバーは、夏は日本よりも若干涼しく、冬はやや寒い程度です。気候的には非常に住みやすい街です。元々移民が多いこともあり、様々な国籍の人々が暮らしています。そのため、アジア料理店も多く、食事に困ることはありません。
バンクーバーは、世界トップレベルの制作会社が数多く集まっています。その理由はロサンゼルスと時差がないこと。それと、税制面での優遇措置もあるためです。街を歩いていると、映画の撮影現場に遭遇することもありますよ。
世界を舞台に!海外を目指した理由
幼い頃から父の影響で映画が好きでした。特にヒーロー映画で描かれる、「爆発」「破壊」「大規模な水の表現」といった「FX(視覚効果)」に魅了されました。
いつかこれらの制作に携わりたいと思い、神戸電子専門学校に入学しました。その時から、海外で働くことを目標にしていると先生方に伝えていました。
FXアーティストの仕事は、日本でも海外でも基本的に変わりません。しかし、海外の映画プロジェクトは予算規模が日本より大きいです。そのため、FXにかけられる時間・素材・要素が大幅に増えます。日本と比較して、それらは5倍ほどの要素を使って作業を行います。そのため、より高品質な映像が制作されています。
私は、海外の技術レベルの高さに魅力を感じ、日本国内だけでなく世界でも通用するスキルを身につけたいと考えました。
海外就職を叶える!英語学習とポートフォリオ戦略
やはり英語は必須です。しかし、私はMegalis社に移籍した際、英語に触れる機会が多くありました。Megalis社は日本国内に拠点を置くグローバル企業です。同社は、社員の半数が日本人ですが、残りは外国人です。
入社当初は、”Hi”、”Hello”、”Yes”、”OK”程度しか話せませんでした。聞き取りも全くできないレベルでした。しかし、臆することなく積極的に外国人に話しかけていきました。そうすることで、英語での会話力を身につけました。
海外就職を目指すのであれば、面接で英語でのやり取りが求められます。あとは、日本と同様に、志望する企業が求める表現力や技術力を示す作品集(ポートフォリオ)を作成することです。面接では、そのポートフォリオを見ながら、制作過程などを細かく質問されます。これらの質問に答えられるよう準備をして、面接に臨むことが重要です。
生成AIによる、外国人との会話イメージ
海外での働き方:日本との違いを徹底比較
海外でもコミュニケーションは大切
残念ながら、コロナ禍の影響で海外の多くのスタジオがリモートワークに移行しました。そのため、私も現在はフルリモートで仕事をしています。ですので、同僚と実際に会うことはほとんどありません。
そんな中、海外らしいと感じることがあります。それは、1日3回程度のミーティングで明るいアメリカンジョークが飛び交うことです。時には、煙管(きせる)を吸ったり、食事をしながら参加する人もいます。チャットでは、大量の画像をいたずらで送ってくる人もいます。
海外の労働条件・雇用条件:日本との違いとは
働き方にも違いがあります。日本では残業が個人の裁量に委ねられていることが多いです。しかし、海外では残業を申請し、承認を得なければなりません。そのため、8時間の労働時間内でいかに「時間管理能力」と「スキル」を発揮できるかが重要になります。
海外では大規模なデモやストライキも頻繁に起こり、CG業界でも例外ではありません。私はその影響を直接的には受けていません。しかし、過去には業界全体の仕事が減少し、約1年間職を失った人も多くいました。
また、海外では給与は月給制ではなく時給制が一般的です。週に1回または2週間に1回、口座に振り込まれます。ため、比較的頻繁に収入を得ることができます。
海外で働く上で、英語とどう向き合ったのか
やはり英語には苦労しました。海外の会社に応募し始めた当初、面接で十分に会話ができず、不採用が続きました。日常業務で英語を耳にする機会はありました。しかし、聞き慣れない単語や訛りに苦戦し、思うように受け答えができませんでした。
しかし、何度も面接を受けるうちに経験を積み上がってきました。そうすると、対応策を考えることができるようになりました。現在では流暢とは言えないものの、最低限の会話はできるレベルになっています。そうやって、仕事で問題なくコミュニケーションを取れるようになりました。
そうして初めてジョブオファーをもらったときは、これまでの努力が報われたと感じました。それは、人生で一番嬉しい瞬間でした。
FXスキル:日本で培った技術は海外で通用する?
海外の大手CGスタジオでは、工場のように作業が分業化されています。例えば、スーパーバイザー(作業指示者)があらかじめ用意したエフェクトの設定やツールを使って、決められた範囲内で調整や加工を行うことが多いです。この方法は大量のタスクを効率的に処理するのに適しています。しかし、一からエフェクトを作成する機会は少ないです。ため、アーティストとしてのスキル向上には限界があるかもしれません。
一方で、日本ではエフェクトをゼロから作り上げる機会が多いです。さらに、個々のスキルを磨く環境が整っています。そのため、日本でしっかりと経験を積んだ人は、海外でも十分に通用すると考えています。
生成AIによる、海外に飛び出す若者のイメージ
夢を叶えるために:海外で働く先輩からのメッセージ
海外のCG業界への道:必要なスキルと「あきらめないこと」
すでに夢がある方は、とにかく諦めないことが大切です。英語にしても、CG業界でのスキルにしても、必ず壁にぶつかります。それでも、それを乗り越えられたのは、夢を諦めないという信念があったからです。
私は英語力がゼロからのスタートでした。しかし、機会があれば積極的に会話することで少しずつ上達しました。さらに、英語での面接も、何度も失敗を重ねながら諦めずに挑戦しました。
一度に上達することはありません。どのようなステップアップが必要かを考えることが重要です。
FXアーティストを目指すのであれば、その会社が求めるスキルを磨く必要があります。そのためには、ポートフォリオもそれに合わせた作品が必要です。その作品を作るには、必要なソフトウェアを習得しなければなりません。このように、どのようなステップを踏む必要があるかを考えるのです。
夢を夢で終わらせないために、自分の中で現実味を増すためのイメージを具体的に描いてみてください。